著者
大谷 哲
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.14-26, 2012-03-10 (Released:2017-09-29)

現在、ポスト・ポストモダンの強い自覚と共に、「神話の再創生」を鍵語に掲げる村上春樹。製作者が、小説の「ヴァージョンアップ」によって「またひとつ違う可能性を追求してみたかった」と言うのが二一年振りに改編された『ねむり』である。読書行為においては、それは〈語り〉のヴァージョンアップであり、相関的に〈読み〉のヴァージョンアップの契機として、この小説は現前している。村上春樹の文学が世界的に読まれるようになった今日。デビュー時の七九年はもちろん、オリジナル「眠り」が発表された八九年とて、もはや同時代とは言い難い。製作者が述べるように、ストーリーで読まれることを拒絶するのが春樹文学だとすれば、従来はストーリーでしか読まれてこなかった傾きの中にある春樹文学に纏わる言説群。その研究も、一見盛況に見えて、実は〈読み〉のヴェクトルの定まらない混迷の中にあるのではないか。小説の分析をとおして、オリジナル「眠り」が同時代に担ったであろう文脈と、今日の新『ねむり』の可能性を見定めたい。さらに、そこに文学研究の「八〇年代問題」(田中実)を重ね合わせて見た時に、あらたに見えてくるものとは何か。ポストモダニズムの影響を被り、表層に止まった八〇年代。〈読み〉の根拠を原理的に問い直し、〈深層批評〉の実践に向けての認識を深めたい。

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