- 著者
-
木村 洋
- 出版者
- 日本近代文学会
- 雑誌
- 日本近代文学 (ISSN:05493749)
- 巻号頁・発行日
- vol.105, pp.32-47, 2021-11-15 (Released:2022-11-23)
とくに一九〇〇年代において文学と哲学は、社会道徳や国家に反抗する個人主義者たちの精神活動の土台になった。こうした動向が、小栗風葉の小説「さめたる女」(一九〇一年)のように、哲学的な知見に支えられた新しい女性像を生み出した。そして一九〇六年には哲学者風の女学生の過激な主張が話題を呼ぶ。一九〇〇年代に統治権力や保守派論客が哲学を有害と見るようになるのもそのためだった。平塚らいてうもこうした女哲学者の系譜の一員なのである。森田草平『煤煙』(一九〇九年)では、哲学的な思索を通じて社会道徳に反抗する平塚らいてうの姿が詳しく書き留められている。明治時代の思想界はこのように女哲学者の育成を通じて、自己を更新するきっかけを手に入れた。