著者
板倉 有大
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.13, no.21, pp.1-19, 2006-05-20 (Released:2009-02-16)
参考文献数
80

九州縄文時代前期以降の森林・木材利用システムの変容過程を把握するために,各遺跡出土磨製石斧セットの変異の様相とその通時的な変化を整理した。対象地域は島嶼部を除いた九州島内とし,対象時期は前期・中期・中期後葉~後期前葉・後期中葉・後期後葉~晩期中葉とした。磨製石斧の器種分類に用いた属性は,サイズ・刃部断面形態・成形・基部形態・刃端部使用痕などである。結果は以下の通りである。(1)九州縄文時代前期以降の遺跡出土磨製石斧セットには,沿岸部と内陸部といった遺跡間変異が認められ,その通時的変化が把握できる。そのパターンは,その遺跡で製作された木質遺物,遺跡周辺の植生,生業活動などに関連する可能性が高く,生業・居住様式に内包される森林・木材利用の適応過程を反映すると考えられる。(2)前期までは,沿岸部遺跡出土の磨製石斧セットが多様であるのに対し,中期後葉には,沿岸部だけでなく内陸部出土の磨製石斧セットの変異も大きくなる。これは前期の沿岸部中心の生業・居住活動から中期以降徐々に内陸部での生業・居住活動の比率が高まる現象を反映している。(3)また,このような変化は,伐採用石斧が前・中期までの扁平大型石斧から,中期後葉~後期前葉に東日本系の乳棒状石斧へと変化する現象や後期中葉に九州南部で方柱状ノミ形石斧が普及する現象などと並行して起こっている。九州縄文時代中期以降の内陸部への居住拡大は,人口増加や中期冷涼湿潤化に伴う沿岸環境の変化などに起因するとともに,積極的な内陸部の資源利用を促したと考えられる。また,そのような生業・居住システムの変容に際して,伐採斧と加工斧の双方に技術レベルでの変化が認められ,九州外からの技術的影響も示唆された。

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