著者
小林 智子 高山 義浩 小澤 幸子 岡田 邦彦
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.100, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>エイズ動向委員会の報告によると、全国における2004年の新規HIV感染者数とエイズ患者数の報告数の合計が1165件となり、HIVに感染した人の総数が初めて10000件を超える報告数となった。これを都道府県別人口比で集計すると、長野県のHIV感染者数は東京に次いで2番目に多い報告数であった。さらに、新規AIDS発症者を人口比で集計すると、長野県は全国で1番多い報告数となった。とくに東信地域は県内でも患者数が多いとされる。これは、新幹線、高速道路など長野オリンピックに備えた建設ラッシュにおいて流入した外国人(肉体労働者とセックスワーカー)が、流行の引き金となったと考えられている。そこで東信地域に位置する当院の新規感染者の推移を示し、この地域のHIV蔓延の実態と対策について考察する。<結果>当院では、1986年10月より2006年3月までに79名の新規HIV感染者の受診があり、既知感染者3名の他院よりの紹介受診があった。これら82名の2006年4月1日現在における転帰内訳は、帰国支援 19名(タイ 18名、スリランカ 1名)、当院にて死亡 9名、他院へ紹介 3名、行方不明 8名、入院加療中 2名(HAART施行中 1名、帰国準備中 1名)、通院加療中 41名となっている。 2005年度に当院を受診した新規HIV感染者は9名であった。このうち8名がAIDS発症者であった。なお、その国籍・性別の内訳は、日本人男性 5名、タイ人男性 1名、タイ人女性 3名であった。 現在、当院にて加療中の患者43名の国籍・性別の内訳は、日本人男性 29名(平均年齢 49.0歳)、日本人女性 4名(同 45.0歳)、タイ人男性 1名、タイ人女性 8名、フィリピン人女性 1名である。<考察>当院における新規HIV感染者は急速に増加傾向であり、主に外国人女性から日本人男性へと感染拡大の様相を呈している。また、いわゆる「いきなりエイズ」が大半を占めており、受診する感染者が氷山の一角に過ぎないと推察される。さらに、近年の傾向として、日本人男性の発症が増加してきているが、今後は日本人女性へとその感染が蔓延してゆくことが危惧される。当院診療圏のHIVの広がりについて、楽観的な要素はほとんどなく、今後も新規感染者の報告数は増え続けるものと思われる。そこで当院では、熟年世代への啓蒙活動やセックスワーカーらを対象とした教育・検診活動を展開することを今年度の活動の柱のひとつとして位置づけ、現在取り組んでいるところである。またHIV感染症の早期発見のため、HIV診断のコツについて、地域医師会などと協力しながら、内科に限らず、皮膚科医、泌尿器科医、外科医などへの教育活動を展開してゆく方針としている。 またHIV診療の進歩により、その慢性期管理へと我々の診療も軸足が移りつつある。よって、高齢化しつつある感染者と家族を支えるサポート体制の充実も必要となってくることが予想されている。こうした変化に対しても、エイズ拠点病院として適時取り組んでいく必要があると考えている。

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