著者
丹羽 政美 安藤 秀人 平松 達 深澤 基 伊藤 栄里子 安藤 俊郎 渡邉 常夫 藤本 正夫 小出 卓也 岡野 学
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.143, 2006 (Released:2006-11-06)

<はじめに>前立腺癌は日本人の高齢化と食生活の欧米化に伴い、日本でも増加傾向にある疾患である。前立腺疾患の診断においてはprostate specific antigen(PSA)、直腸診、経直腸的超音波断層法、MRI、針生検などが中心になっているが、生検が簡便に施行できるため画像診断よりも生検が優先される傾向にあった。しかし、従来の生検のsensitivityは50%前後という報告や最近のMRI診断法の進歩によって前立腺の内部構造が明瞭に描出されるようになり生検で前立腺癌と確定した症例の臨床病期診断のみならず、生検前の癌病変の検出においても非常に有用であることがわかってきた。生検前にMRI検査を行って癌部が検出もしくは疑いができれば系統的生検と標的生検を同時に実施することができ、診断能の向上が期待できる。以前勤務した西美濃厚生病院や当院でも前立腺癌を疑った場合、生検前にMRI検査を行うことをルーチン化し、生検の診断能の向上を目指して担当技師が画像についてコメントを記載している。 今回、東濃厚生病院と西美濃厚生病院で昨年度一年間に生検前にMRI検査を施行した症例について生検結果と比較検討した。また拡散強調画像が可能であった症例についてADC(apparent diffusion coefficient)値を測定したので報告する。<方法>東濃厚生病院と西美濃厚生病院で昨年度一年間に生検前にMRI検査を施行し標的生検が可能であった91例について生検診断をゴールドスタンダードとして年齢、PSA値、MRI診断について検討した。撮影装置は1.5T(PhilipsおよびGE社製)装置でphased array coilを用いて撮像した。撮像法はT1強調画像、T2強調画像、Gdダイナミック画像で検討した。(可能であった24症例についてはADC値も検討した。)<結果>生検前にMRIが施行された91症例中37症例に生検によって前立腺癌が認められた。癌の平均年齢は72.5歳でPSA値の平均値は46.5ng/mlであった。PSA値を年代群別に癌とBPHを比較検討すると年代群が高くなるにつれて高値になる傾向がみられたが年代群別では有意差はみられなかった。しかし、癌とBPHでは各群で有意差を認めた。生検結果を基準にみたMRIの正診率は84%、感度96%、特異度76%、陽性的中率73%、陰性的中率95%と高い診断能が得られた。また拡散強調画像が可能であった前立腺癌部のADC値は平均0.97×10-3mm2/sec、正常部のADC値は1.57×10-3mm2/secであった。<考察>前立腺は生検後の出血によって前立腺の信号強度は修飾され、しかもその影響が長く続くことが知られている。これらの信号変化は読影の妨げになるだけでなく、偽病変の原因となり病変の検出能をも低下させる。そのためMRIは生検前に撮像することが推奨されるが、今回の検討でかなり精度の高い診断が可能であることが認められた。また、Gdダイナミック撮像やADC値を測定することにより、より精度が増すと考えられる。さらにMRIは検出能だけでなく皮膜外浸潤や隣接臓器浸潤などの検出も可能で治療法を選択するためにも必要不可欠な検査であると考えられた。ただし、MRIで強く前立腺癌が疑われたにもかかわらず生検でBPHと診断された症例があることやMRIで癌と良性病変との鑑別が困難な場合もあったことより十分に経過観察し今後の検討課題としたい。
著者
森下 啓明 坂本 英里子 保浦 晃徳 石崎 誠二 月山 克史 近藤 国和 玉井 宏史 山本 昌弘
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.120, 2006 (Released:2006-11-06)

<症例> 61歳男性、既往歴に脳梗塞がある。アレルギー歴なし。 平成17年10月29日昼頃、自宅近くの山林で採取した白色のキノコ約20本を調理して摂取した。同日20時頃より腹痛、嘔気、嘔吐、下痢等の消化器症状が出現したが自宅で経過観察していた。10月31日には経口摂取不能となったため、当院救急外来を受診。受診時は意識清明、バイタルサインに大きな異常はなく、神経学的異常所見も認めなかった。しかし、血液検査に於いて肝機能障害、腎機能障害を認めたことからキノコ中毒を疑い緊急入院となった。 患者の持参したキノコの特徴および、経過(消化器症状に続発する肝機能障害)よりドクツルタケ(アマニタトキシン)中毒を疑い、日本中毒センターに問い合わせを行った上で治療を開始した。補液、活性炭投与(25g/回、6回/日、2日間)、血液還流療法(2日間)、ペニシリンG大量投与(1800万単位/日、2日間)を施行し、肝機能障害は改善傾向、第26病日には正常化した。また、第7病日より急性膵炎を発症したが、メシル酸ガベキサート投与などを行い第28病日には改善したため、平成17年12月26日退院となった。 入院時に採取した血液、尿および持参したキノコは日本中毒センターに送付し、分析を依頼している。<考察> ドクツルタケ、タマゴテングタケなどに含まれるアマニタトキシンは、ヒトにおいては約0.1mg/kgが致死量とされており、日本におけるキノコ中毒の中で最も致死率の高いものである。急性胃腸症状とそれに続発する肝機能障害が典型的な経過であり、肝不全が死因となる。本例は典型的な臨床経過よりアマニタトキシン中毒と診断したが、ドクツルタケでは1から2本で致死量となることから、今回摂取したキノコは比較的アマニタトキシン含有量の少ない種類であったものと推測された。治療法としては腸肝循環するアマニタトキシンを活性炭により除去すること及び対症療法が中心となり、解毒薬として確立されたものはない。血液還流療法が有効とする報告もあるが、未だに確固たる証拠はない。ペニシリンG大量投与によってアマニタトキシンの肝細胞への取り込みが阻害されることが動物実験によって確認されているが、臨床における有効性は確立されていない。その他、シリマリン、シメチジン、アスコルビン酸、N-アセチルシステイン等が使用されることもあるが、いずれの有効性も未確立である。 本例では活性炭投与、血液還流療法、ペニシリンG大量投与を行い、肝機能障害を残すことなく生存退院に至った
著者
小林 智子 高山 義浩 小澤 幸子 岡田 邦彦
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.100, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>エイズ動向委員会の報告によると、全国における2004年の新規HIV感染者数とエイズ患者数の報告数の合計が1165件となり、HIVに感染した人の総数が初めて10000件を超える報告数となった。これを都道府県別人口比で集計すると、長野県のHIV感染者数は東京に次いで2番目に多い報告数であった。さらに、新規AIDS発症者を人口比で集計すると、長野県は全国で1番多い報告数となった。とくに東信地域は県内でも患者数が多いとされる。これは、新幹線、高速道路など長野オリンピックに備えた建設ラッシュにおいて流入した外国人(肉体労働者とセックスワーカー)が、流行の引き金となったと考えられている。そこで東信地域に位置する当院の新規感染者の推移を示し、この地域のHIV蔓延の実態と対策について考察する。<結果>当院では、1986年10月より2006年3月までに79名の新規HIV感染者の受診があり、既知感染者3名の他院よりの紹介受診があった。これら82名の2006年4月1日現在における転帰内訳は、帰国支援 19名(タイ 18名、スリランカ 1名)、当院にて死亡 9名、他院へ紹介 3名、行方不明 8名、入院加療中 2名(HAART施行中 1名、帰国準備中 1名)、通院加療中 41名となっている。 2005年度に当院を受診した新規HIV感染者は9名であった。このうち8名がAIDS発症者であった。なお、その国籍・性別の内訳は、日本人男性 5名、タイ人男性 1名、タイ人女性 3名であった。 現在、当院にて加療中の患者43名の国籍・性別の内訳は、日本人男性 29名(平均年齢 49.0歳)、日本人女性 4名(同 45.0歳)、タイ人男性 1名、タイ人女性 8名、フィリピン人女性 1名である。<考察>当院における新規HIV感染者は急速に増加傾向であり、主に外国人女性から日本人男性へと感染拡大の様相を呈している。また、いわゆる「いきなりエイズ」が大半を占めており、受診する感染者が氷山の一角に過ぎないと推察される。さらに、近年の傾向として、日本人男性の発症が増加してきているが、今後は日本人女性へとその感染が蔓延してゆくことが危惧される。当院診療圏のHIVの広がりについて、楽観的な要素はほとんどなく、今後も新規感染者の報告数は増え続けるものと思われる。そこで当院では、熟年世代への啓蒙活動やセックスワーカーらを対象とした教育・検診活動を展開することを今年度の活動の柱のひとつとして位置づけ、現在取り組んでいるところである。またHIV感染症の早期発見のため、HIV診断のコツについて、地域医師会などと協力しながら、内科に限らず、皮膚科医、泌尿器科医、外科医などへの教育活動を展開してゆく方針としている。 またHIV診療の進歩により、その慢性期管理へと我々の診療も軸足が移りつつある。よって、高齢化しつつある感染者と家族を支えるサポート体制の充実も必要となってくることが予想されている。こうした変化に対しても、エイズ拠点病院として適時取り組んでいく必要があると考えている。
著者
加藤 あい 宮田 明子 守屋 由香
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.145, 2006 (Released:2006-11-06)

<はじめに> 産褥期における子宮の復古および悪露の変化は著しくかつ重要であるため、産褥期における注意深い観察と復古促進に向けたケアが必要となる。 経腟分娩後の子宮復古状態については基準化され、看護を行う上でのアセスメントの指針ともなっている。しかし、帝王切開後の子宮復古に関しては一般に経腟分娩より遅いと言われているが、明らかなデータとして発表されているものはない。そこで、経腟分娩と帝王切開の子宮復古状態を比較し、帝王切開術後のアセスメントの基準を明らかにすることを目的とし検討した。<研究方法> 経腟分娩者30名、帝王切開分娩者21名。正期産かつ単胎とし、帝王切開分娩者に関しては、緊急帝王切開や合併症がない者とした。産褥0日より退院日までの子宮底長と硬度および、悪露量を測定した。妊娠・分娩経過、分娩週数、妊娠・分娩歴、Hb値、胎盤の大きさ・重さ、児体重、使用薬剤名・投与量、排泄状況、離床時期などについてフェイスシートを用い情報収集した。<結果および考察> 子宮底長の経日的変化に関して、産褥1日を除いては、帝王切開の方が経膣分娩の子宮底長に比べて高い。これは子宮に手術操作が加わることや、安静の期間が長いこと、授乳開始の遅れが影響していると考えられる。悪露量の経日的変化において、産褥1・3・4日で帝王切開より経腟分娩のほうが有意に悪露量が多く、産褥5日は経腟分娩の悪露量が多い傾向にあり、産褥2・6日は、帝王切開の悪露量が多い傾向であった。産褥1日は経腟分娩では、授乳の開始や安静の制限がされていないことが関連していると考えられる。産褥2日に帝王切開の悪露量が多い傾向であったのは、歩行開始となることが関連していると考えられる。 帝王切開の場合、経腟分娩と比べて子宮底長は高く経過していくが悪露量は経腟分娩が多い量で推移することが多かった。一般的には、子宮底長が高いと悪露量が多く子宮収縮が悪いと判断するが、帝王切開の場合は子宮底長が高いことと、悪露量の多さには関連がなく、子宮底長と悪露量では子宮収縮状態を判断することはできない。【まとめ】 経腟分娩と帝王切開における産褥期の子宮底長の経日的変化をみた結果、帝王切開分娩の方が、経腟分娩よりも子宮底長が高く推移することが明らかとなった。しかし、帝王切開の子宮底長が高く推移しても、経腟分娩に比べ悪露量は少なく、子宮収縮が不良という指標にはならない。産褥期の子宮復古に影響を及ぼすといわれる因子についての今回の研究では有意差はでなかった。今後は、産褥期の吸啜回数や時間など、本研究項目に取り上げなかった因子の影響も含め、検討すべきである。
著者
遠藤 信英 度会 正人 堀部 秀樹
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.311, 2006 (Released:2006-11-06)

<症例>18歳女性。<既往歴>15歳の頃より近医心療内科に自ら通院。2回の自殺企図の既往があった。<現病歴>2006年4月9日、インターネットにてジギタリスの毒性を知り、花屋でジギタリスの鉢植えを購入し、その葉20枚を煮て、煮汁を服用した。服用直後から嘔気があり嘔吐を続け、症状が持続するため翌日当院救急外来を受診した。受診時身体所見は、意識清明・血圧99/59mmHg・脈拍数55回/分・経皮的酸素飽和度97%であった。心電図では_II_・_III_・aVfとV4-6に盆状ST低下を認め、2:1房室ブロックを中心に、WenckebachやMobitz2型2度ブロックといった多彩な不整脈を呈していたため入院管理とした。<入院後経過>ジギトキシン・ジゴキシンの血中濃度はそれぞれ128ng/ml,5.33ng/mlと正常値上限の5倍程度まで著明に上昇していたが、心エコー検査にて心機能は正常で心不全兆候はなく、肝腎機能は良好であり、モニター心電図にてlong pauseなどの危険な兆候が見られなかったことから保存的治療で経過を見ることとした。入院中は心電図モニターによる監視下のもと、補液治療を行った。入院時から2:1房室ブロックは持続していたが、特に危険な不整脈を誘発することなく経過し、第4病日頃から、それまで2:1房室ブロックで50台ほどの脈拍数であったものが1:1でつながり始めるようになった。第7病日頃には伝導が2:1となることはなくなり、1:1伝導で脈拍数が100ほどの洞性頻脈になった。その後は脈拍数も70ほどへ低下し、嘔気もとれ経口摂取も十分可能になったため第10病日退院した。第7病日の時点でジギトキシン・ジゴキシンの血中濃度はそれぞれ38.4ng/ml,1.75ng/mlであった。<まとめ>自殺企図にてジギタリスの葉を大量摂取した一例を経験した。本症例では不整脈の増悪・急変に備えペースメーカーなどの緊急処置も考慮していたが、健康若年者であったことから良好な転帰をとったと考えられる。
著者
山本 愛 林 美恵子 飯田 智子 多田 あゆみ
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.75, 2006 (Released:2006-11-06)

<はじめに>術後の患者は、術前からの絶飲食、手術中の挿管による口腔内の乾燥、副交感神経遮断薬使用による分泌物抑制、また術後の発熱などによる不感蒸泄など、さまざまな要因で口渇が生じやすい。従来、当病棟では口渇時は水による含嗽をすすめている。しかし、術後口渇を訴える患者は多い現状にある。そこで今回、唾液の分泌作用・清涼作用のあるレモン酢に注目し、口渇への効果があるか検討した。<研究方法> 目的:口渇に対するレモン酢の効果を知る。 期間:平成17年12月1日から平成18年2月28日。 対象:全身麻酔下で消化器開腹手術を受けた、術後2から3日目の絶飲食期間の患者11名。 方法:1.患者11名に対し、レモン酢を40倍に希釈したレモン酢水(以下40倍レモン水)・50倍に希釈したレモン酢水(以下50倍レモン水)・水道水の3種類での含嗽を実施。実施後は、患者が口渇緩和になると感じた含嗽を行う。希釈倍数は、無作為に選出した看護師に2種類のレモン水含嗽を行い、40倍をすっぱいと感じ50倍をすっぱいと感じなかった結果から決定した。 2.含嗽後、アンケートに沿って聞き取り調査を行う。<結果>口渇は10名が感じ、口渇のなかった1名はレモン水含嗽を行うことで口渇だったことが分かったと答えている。2種類のレモン水含嗽で3名が口渇は残ると答え、「早く飲みたい」という意見が強かった。全員が50倍レモン水での含嗽を続けていた。水道水は、「味がなくすっきりしない」「口の中がすぐに乾燥する」、50倍レモン水は口腔内の潤いを感じたと全員が答えていた。50倍レモン水は、味覚において不快に感じた人はおらず、「すっきりする」「さっぱりして気持ちが良い」と全員が答えた。しかし、40倍レモン水はレモン特有の酸味が強くなり後味が悪くなると3名が答えた。また2名の患者が氷を入れて含嗽を行っており「すっきりする」「生き返ったようにな」との言葉が聞かれた。<考察>50倍レモン水で全員が口腔内の潤いを感じたことは、レモン酢に含まれるクエン酸や酢酸の唾液分泌効果によるものと考える。一時的とはいえ口渇への緩和につながったのではないか。今回、絶飲食を強いられた患者にとって飲めないというストレスが生じている。レモン水含嗽を行っても口渇が生じたことは「飲みたい」という意識が高まっているからだと考える。術後苦痛が強いなか、患者の言葉からも、口渇という苦痛を緩和させることができ、同時にストレスも緩和できたと考える。今回、すっぱいと感じる40倍レモン水で不快を感じたことから、レモン特有の酸味を強くすることは、術後の患者に刺激を与え不快を生じ逆効果とわかった。術後回復過程をたどる患者に、絶飲食中に爽快感を得る50倍レモン水含嗽は有効であった。また、氷を入れて含嗽を行っていることから、口渇緩和と温度の関係も調べていけたのではないか。<まとめ>1.50倍レモン酢水は、一時的な口渇緩和での効果がみられ、口渇という苦痛の緩和にもつながる。2.術後の患者には、40倍レモン酢水の強い酸味で不快を与える。
著者
宮本 涼子 西前 順子 桜井 陽子 辺見 典子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.82, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>術後患者は、痛みなどの肉体的苦痛のほか、不安・緊張・孤独感などの精神的負担も伴う。その結果、創痛や不安を過大に自覚し、睡眠障害・不穏・せん妄が見られることがある。私達は日頃の多忙な看護業務の中、精神的へのケアが不十分ではないかと自覚している。そこで、術後患者のリラクゼーション効果を得るために癒しの効果がある曲としてモーツァルトを選択し、ヒーリング音楽を流す効果について検討した。<対象・研究方法>病棟に入院され、全身(+硬膜外)麻酔下にて外科的手術を受けた患者23名を対象とし、無作為にコントロール群(音楽を流さない)12名(平均72.0歳)と実験群(平均68.6歳)の2群にわけた。また、両群間共に手術後、ヒーリング音楽を流し、その効果についてのアンケートを施行する旨を術前オリエンテーションで説明し了解を得た。 コントロール群は、従来どおりの環境下において患者の疼痛・睡眠状況を把握した。実験群は、術後30分から翌朝6時まで、癒しの曲として有名なモーツァルトの曲を、音量・スピーカーの位置を統一した上で繰り返し流した。術後、自覚的疼痛の程度を、フェイススケールを用いて術翌朝まで経時的に観察した。鎮痛剤使用の時間と内容を記録し、音楽の感想、睡眠状況、痛みや不安についてのアンケートを術後3日以内に実施した。<結果・考察>今回の研究では、ヒーリング音楽を流すことによる手術後の疼痛軽減、睡眠の確保といった肉体的な苦痛軽減は得られなかった。これらは、ヒーリング音楽は肉体的苦痛への直接的な軽減効果が無い事を示している。しかし、侵襲の大きい手術後においては、実験群で疼痛が軽減されている傾向があり、鎮痛剤の平均使用頻度も実験群のほうが少なかった。看護師側への影響としても、「音楽を流す事により緊張した気持ちが和らぎ、ゆとりを持って患者と接することができた」という意見もあり、より良い看護につながるのではないかと期待される。<まとめ>今回の研究において、ヒーリング音楽を流すことは、肉体的苦痛の軽減が得られるとは言えなかったものの、患者の不安軽減など精神面でのサポートに効果的であることが示唆された。また、看護師側にも、ゆとりをもって患者に接することができるようになった。今後、精神的な苦痛緩和のためには、患者への声かけなど精神面へのケアを充実させることはもちろん、ヒーリング音楽などの聴覚、嗅覚(アロマなど)、視覚(病室の照明など)などの感覚に訴えるような補助的な方法を積極的に導入することも重要であると思われた。
著者
常山 聡 日下 起理子 田村 裕恵 小松 良一 久保田 芳正 櫻井 宏治 赤羽 弘充 高橋 昌宏
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.268, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>乳腺粘液癌は、腫瘍性上皮細胞から細胞外へ分泌された粘液巣を特徴とする特殊型の浸潤性乳癌である。発生頻度は全乳癌の1_から_4%であり、比較的まれな腫瘍である。また、予後については他の組織型に比して良好である。今回我々は、17症例の粘液癌における予後因子について、他の組織型との比較を行なった。<対象と方法>1995年から2004年に当院外科にて手術が施行され組織学的に乳腺粘液癌と確認された17症例を対象とした。また、比較対象として2002年_から_2004年の期間に当院で手術施行され、組織学的診断において粘液癌を含む特殊型を除いた166症例を使用した。これらの症例について、予後因子としてのエストロゲンレセプター(ER)、プロゲステロンレセプター(PgR)、p53、Her2/nueとの比較を行なった。<結果>ERにおける陽性率は、粘液癌では17症例中16件が陽性であり94%であった。また他の組織型では、120症例中84件で陽性率は70%であった。 ERは乳癌における予後因子として有用とされており、悪性度と負の相関を示すとされている。今回の結果における粘液癌のER陽性率は、他の組織型に比して高く、予後が良好であることを示していると考えられる。また、粘液癌でER陰性の症例1例は、肺転移をおこしていた。 PgRについては、粘液癌で13例が陽性で陽性率76%、他の組織型では120症例中陽性68例で陽性率51%であった。 PgRも乳癌における予後因子として有用であり、ER同様に悪性度と負の相関を示している。今回の結果における粘液癌のPgR陽性率も、他の組織型に比して高く、予後が良好であることを示していると考えられる。また、肺転移をおこした粘液癌については、PgRも陰性であった。 p53については、粘液癌で1例が陽性で陽性率6%、他の組織型では126症例中45件が陽性で陽性率36%であった。 p53については、ER・PgRとは反対に悪性度と正の相関を示すとされている。今回の粘液癌のp53陽性率は、他の組織型に比し低く、予後が良好であることを示していると考えられる。 Her2/nueについては、粘液癌で1例が陽性で陽性率6%、他の組織型では146症例中30例が陽性で陽性率21%であった。 Her2/nueは、p53同様にER・PgRとは反対に正の相関を示すとされている。今回の粘液癌のHer2/nue陽性率は、他の組織型に比し低く、予後が良好であることを示していると考えられる。また、粘液癌でHer2/nue陽性の症例1例は、ER・PgRともに陰性で肺転移をおこしていた症例であった。<考察>乳腺粘液癌は他の組織型に比較して、予後は良好であるとされている。また今回検討した予後因子からも良好であることが示されている。また、粘液癌17症例中現在までに転移が確認されている1例については、ER・PgRともに陰性、Her2/nue陽性と今回検討した3つの予後因子が、悪性度の高い可能性を示している。乳腺粘液癌においては、予後因子で悪性度が高い可能性を示している場合、将来の転移の可能性も考慮し、経過を観察していく必要があると考えられる。今後、再発の有無を含めた術後経過と予後因子の関係についても更なる検討をしていく必要があると考えられる。
著者
神谷 有希 松野 俊一 田中 史朗 高橋 治海 山本 悟
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.148, 2006 (Released:2006-11-06)

<はじめに> 非浸潤性乳管癌(以下DCIS)の発見契機は、MMGでの微細石灰化や腫瘤・乳頭異常分泌である。MMG上では石灰化で検出されることが多いというのは知られているが、腫瘤・非対称性陰影・構築の乱れなどでも描出される。 今回は、非触知・US上所見なし・MMG上微小石灰化で発見されたDCISの症例を報告する。<対象> 女性 39歳<経過>2003年10月左乳頭異常分泌により当院受診 MMG・USとも異常なし 1年後のfollow up 2004年12月左MMGに集簇性、円形の微小石灰化 カテゴリー3 USは異常なし 6ヵ月後のfollow up 2005年6月左MMGに集簇性微小石灰化 前回より変化なし 6ヵ月後のfollow up 2005年10月前回の微小石灰化が一部線状 カテゴリー4 ステレオガイド下マンモトーム生検を実施<結果>生検の結果DCISであった。 触診では触れず、US上石灰化の場所が特定できず、ステレオガイド下においてフックーワイヤーを留置し、Bq+Axを行い、断端(-)であった。<考察> 乳癌は乳管上皮層から発生するため、ある時期には乳管の中に留まっており、その時期の癌は非浸潤癌である。この時期はまちまちであり、人により異なる。この非浸潤癌は癌細胞が乳管の中だけで増殖し、乳管内を進展するためリンパ節転移や遠隔転移をきたすことのない癌である。そのため、早期の発見が大切である。 集簇性の微小石灰化は乳がんを疑うものであるが、ごく狭い範囲に微小石灰化がある場合は良悪性の判断は困難である。 今回はfollow upしていたところ一部線状の石灰化が発生したため、マンモトーム生険を施行し、確定診断を行った。石灰化の位置がUS上で特定されなかった為、ステレオガイド下においてフックーワイヤーを留置し、手術を施行した。このように、エコー下にて病変部位が特定できず石灰化がある場合においての生険およびフックーワイヤー留置はステレオガイド下のマンモトームが大変有用である。
著者
杉山 貴敏
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.270, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>近年, 傷を消毒しない,傷を湿潤環境下で治療する創傷治療(湿潤療法, Moist Wound Healing)が提唱されている. この療法は生体の細胞成長因子を積極的に利用する治療法で,創傷の治癒が従来の治療に比べて早いのが特徴である.口腔外領域は創を創傷被覆材などで閉鎖し湿潤環境下で治療し,口腔内領域はすでに唾液による湿潤環境にあるため, 含嗽剤をふくめた消毒を行わないことが, 湿潤療法を実践することにあたると考えられる.当科では平成15年5月より現在にいたるまで, 抜歯をはじめ外傷など創傷治療は全て湿潤療法に基づく治療を行っている. 今回,西美濃厚生病院歯科口腔外科で演者自身が行った平成13年5月より平成17年5月までの全ての創傷治療について, 湿潤療法実施前と湿潤療法実施後の2群に分けて, 術後の治癒不全, 感染等について比較検討を行った. 対象は1歳より96歳までの患者計733名, 湿潤療法実施前群(平均年齢60.2歳)556例, 湿潤療法実施後群(平均年齢58.5歳)591例で乳歯抜歯症例は除外した. 術後, 抜糸時に創が哆開した症例, 創のびらん,潰瘍,壊死を生じた症例,細菌感染を生じた症例,創部の疼痛が消失しない症例を治癒不全例とした。<結果>治癒不全例は湿潤療法実施前群52例(10.97%), 湿潤療法実施後群21例(3.55%)であり湿潤療法実施群が有意に少なかった. また, 抜糸までの期間は湿潤療法実施前群平均6.83日, 湿潤療法実施後群4.78日であった. <考察>以上の結果より、創を消毒しても術後の治癒不全や創感染を防止することはできないこと,湿潤療法による治癒期間の短縮の可能性が示唆された. 夏井は,創感染は縫合糸,壊死組織,血腫,痂皮などの異物が存在するからおこるのであって,細菌が存在するからおこるのではないと述べている.皮膚や皮下組織の感染は細菌単独でおこすためには組織1gあたり105から106個の細菌が必要とされているが,異物の存在下では200個の細菌で感染が成立するといわれている.消毒薬による消毒は一時的に細菌数を減少させるが,皮膚の皮脂腺や汗腺,口腔常在菌の増殖により細菌数は1日を通しては大きくは変化しないと思われる。 また、創傷治癒には肉芽組織が増生し,線維組織や上皮組織が再生されなければならない。消毒薬はイソジンガーグルの希釈濃度0.23から0.47%でも組織障害性をもっており、組織再生に必要なPDGF, EGF, bFGF, TGFβ, NGFなどの細胞成長因子を無効化し,上皮細胞や線維芽細胞の増生を阻害している。さらに,口腔内で消毒効果を発揮させるにはイソジンではポピドンヨード濃度で0.1%濃度を2から3分間持続させることが必要である.唾液で満たされた口腔内で、この濃度を保つことは困難である。 つまり、口腔内の消毒は,消毒効果よりも組織障害作用の方が大きく,治癒を遅延させているのである。口腔領域の創傷時には水道水や生理食塩水あるいは消毒薬を含まない含嗽剤で口腔をよく洗浄し,壊死物質や血腫など感染源をよく取り除くことが大切であり,異物である縫合糸などは可及的早期に抜糸する必要があると考えられる.湿潤療法により生体の治癒能力を最大限に発揮させ,治癒を早めることが, 術後障害も減少させることができると考えられた.
著者
竹中 理恵 伊東 尚美 安 邦子 加藤 久美子 峯田 祐次 阿部 菜穂子 岩谷 さゆり 秋野 良子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.71, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>当病棟では、せん妄症状の患者に対し、チューブ類の自己抜去や転倒を防ぐために、やむを得ず睡眠剤の投与や抑制を行い危険行動を抑えているのが現状であった。そこで、アロマテラピーの導入で、せん妄症状の患者に対しても少ない症例ではあるが改善が見られたためここに報告する。<方法>1.対象 夜間せん妄症状が見られた当病棟入院患者で、今回の研究を行うことに家族の了承を得た患者3名2.方法1)開始時期 三瓶氏らのアセスメント表を参考に、せん妄スケール表(以下スケール表とする)を作成し2段階に該当した時点でアロマテラピーを開始する。2)アロマテラピーの施行方法 精油をコットンに垂らし枕元に置く。 (1)開始時:リラックス効果のあるラベンダーを使用 (2)開始4時間後から起床時:鎮静効果と催眠作用のあるカモミールを使用 (3)開始が0時以降の場合は2種類を混合し使用3.データ収集方法 スケールの点数からアロマテラピー使用後のせん妄症状の変化を比較する。4.倫理的配慮 同意書に、知る権利・医療における自己決定権・害を与えないこと・プライバシーの保護について記載し、家族に対して説明する。<結果>スケール点数を比較したところ、全ての症例において開始4時間後に点数の下降が見られた。(資料1参照)また、開始時間に関係なく全員が6時から9時の間に覚醒した。<考察>環境の変化に不安、チューブ類や安静などによる拘束感、苦痛からくる不眠や疲労に関連し、せん妄症状が出現した患者3名に施行した。アロマテラピー使用後、3名とも「いい臭いがする」「落ち着く」と言い入眠につながった。吉田は「香りの刺激は嗅覚によって感覚されるが、その神経ルートは他の感覚以上に情動脳系に直結している。」1)と述べている。このことから、ラベンダー・カモミールの香りはリラックス効果が高く、ストレスに由来する各種障害に有効と言われているように、鎮痛・安眠効果が得られ入眠を促すことができたと考えられる。 また、使用開始時間に関係なく全員が6時から9時の間に覚醒し「すっきり眠れた」と話された。深夜問わず睡眠剤を使用した場合その効果が日中まで遷延するが、アロマテラピーのもたらす効果で自然な入眠が得られ、崩れた入眠パターンを取り戻す機会になったと考える。<結論>せん妄患者にもアロマテラピーは、自然な入眠を促すことができ、睡眠パターンを取り戻す介入方法として効果が期待できる。<引用文献>1)吉田倫幸:香りとリラクセーション,現代のエスプリ,P58,1993<参考文献>1)三瓶智美:クリティカルケアで不穏せん妄をどうアセスメントするか,看護技術,vol 51 No1,2005