著者
木村 宣哉 小原 健太朗 秋林 奈緒子 宮本 貴子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2018-039-B, (Released:2019-05-31)
被引用文献数
10

目的:近年、健康に関する情報を扱う能力であるヘルスリテラシー(以下、HL)が国内外ともに注目されてきているが、日本の企業において包括的なHLを調査した研究は見当たらない。本研究の目的は、鉄道会社A社の包括的HLを調査し、産業分野における包括的HLの実態及び健康診断や健康相談などとの関連を明らかにすることである。対象と方法:対象として、A社の社員をA社全体の分布と同程度の割合になるよう年代、性別、夜勤の有無、役職の有無で20群に層化し、541名を系統的無作為抽出した。調査は2017年に郵送による自記式質問紙調査を実施した。HLの測定は、HLS-EU-Q47日本語版を使用した。この質問紙はヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションの3領域で構成され、各領域を合わせたものを総合HLとする。質問は47項目で、回答は「とても簡単」「やや簡単」「やや難しい」「とても難しい」「わからない/あてはまらない」の5択とした。HLのスコアは、0から50点満点に標準化した。HLの困難度は、「やや難しい」と「とても難しい」を合わせた割合とした。HLの比較として、中山らのWEBによる調査とGotoらによる調査を用いた。また、HLと個人属性、健康診断や健康相談等に関する行動との関連をみるため統計解析を行った。本研究はA社内部の倫理委員会の承認を受け実施した。結果:調査票は417名から返却された。A社の総合HLは25.1と低い結果であった。この結果は、中山らの調査と比べると同程度の総合HLで、Gotoらの調査と比べると5点程度低かった。A社の領域別HLは、ヘルスケア24.6、疾病予防27.9、ヘルスプロモーション22.8と全体的に低く、傾向としては疾病予防領域が高く、ヘルスプロモーション領域が低かった。この傾向はGotoらの調査と同様であったが、中山らの調査では逆に疾病予防の領域でHLが低くなっていた。また、A社では個人属性と総合HLに有意差はみられなかった。HLの困難度では「食品パッケージ情報の理解」の項目で最も先行研究と差があり、A社は約20%困難度が高かった。健康診断・健康相談等に関する行動とHLでは、疾病予防とヘルスプロモーションの領域で、健診結果の活用と健診で要精査だった場合の受診行動に有意差がみられた。また、総合HL及び疾病予防のHLと職場巡視で健康相談等を受けた回数とで有意差がみられたが、自分で希望して受けた人を除いた解析では有意差はみられなかった。考察と結論:A社の包括的HLは低かったが、本調査を含め、日本におけるHLS-EU-Q47を用いた3つの調査は一貫した結果を示さなかった。これらの要因として、調査方法の違いやA社の特徴などが考えられる。また、総合HL及び疾病予防のHLが高い人は、自主的に健康相談等を受ける傾向などが明らかとなった。

言及状況

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日本の鉄道会社における包括的ヘルスリテラシーの実態と職場の健康診断・健康相談等に関する行動との関連 https://t.co/dt8Bc8PKd2

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