- 著者
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遠藤 匡俊
- 出版者
- 東北地理学会
- 雑誌
- 季刊地理学 (ISSN:09167889)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.3, pp.155-175, 2015 (Released:2015-08-01)
- 参考文献数
- 68
- 被引用文献数
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1822(文政5)年の有珠山噴火によって火砕流・火砕サージが発生し,多数の人々が死亡した。しかし,具体的な死因や被災地点の噴火口からの距離と熱傷程度との関係は必ずしも明らかではなかった。本研究では,史料に記された被災者の熱傷に関する記述を用いて熱傷の深度,重症度,救命率などを推定した。推定にあたっては1991(平成3)年の雲仙普賢岳の噴火による被災例を参考にした。その結果,火砕流・火砕サージに遭遇して死亡した人々の熱傷の深度は,主にIII度熱傷(皮下熱傷)であった。熱傷の重症度は主に重症熱傷であり,現代であれば熱傷専門施設での入院加療を必要とされるほどであり,それでも救命率は30%以下のレベルに相当していた。死亡者の多くは顔面に強いIII度熱傷を負っており,高度の気道熱傷も生じていた可能性が高い。一方,火砕流・火砕サージに襲われてもすぐに海に逃れて生存した2名は,頭から首にかけてII度熱傷(真皮熱傷)を負った。これは軽症熱傷に相当し,現代の基準によれば外来通院でよい程度であった。被災地点が噴火口から遠くなるほど被災者の熱傷の程度はより弱くなる距離減衰性が見いだされた。