- 著者
-
梶田 真
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 = Proceedings of the General Meeting of the Association of Japanese Geographers
- 巻号頁・発行日
- no.64, 2003-10-11
1.はじめに 近年、公共投資が本来の社会資本整備という目的から逸脱し、土木業者の需要創出のために過大な事業が実施されているとの批判が強まっている。本報告では公共投資・土木業・環境管理の3者の関係の考察を通じて、公共投資改革のあり方について検討したい。2.わが国における土木業の歴史的展開と地場業者 受注生産を行う土木業では業者に対する信頼が業者選択に大きな影響を与えるため、一般に寡占的な受注構造とピラミッド型の分業体制が形成される。わが国の土木業では、高度経済成長期に中央のゼネコンが次々と地方圏のローカルな土木市場に進出し、地場業者の市場を侵食していった。こうした動きに対し、地場業者は「市場の棲み分け」を訴えて政治家などに働きかけていく。その結果、様々な保護制度が設置され、強化されていく。さらに公共投資における国から地方自治体への、大都市圏から地方圏へのシフトの中で、わが国の土木市場は工事の規模、内容そして発注機関の管轄域によって分断される。このような市場構造はわが国の土木業のコスト高構造、公共投資をめぐる様々な不正の温床を生み出す原因であると考えられている。 では、地場業者は必要ないのだろうか?答えはノーである。例えば、災害などが生じたときに迅速に対応することができるのは即座に施工体制を編成することができ、地域の地理的状況を熟知している地場の業者である。それゆえに中央のゼネコンとの役割分担を見直し、その上で現在の地場業者を適切な方向に再編成していくことが求められている。3.環境共生型の社会資本整備に向けた土木業の再編成 今後、環境共生型の社会資本整備を進めていく上で、その担い手である土木業を適切な形に再編成していくための鍵は何であろうか。報告者は政策の信憑性とインセンティブの問題を取り上げたい。 まず、政策の信憑性であるが、この概念は政府の政策を信頼できるものとして受け止め、対象となる主体の行動に影響を与えることができるかどうかを問題とする。例えば、将来的に公共投資を縮小させる、という将来ビジョンを政府が示したとしても、それが信憑性を持って受け取られなければ、業者は公共投資の縮小に向けた再編成のための努力にかわって、公共投資水準を維持するためのロビー活動に努力を注ぐことになるだろう。適切な将来展望の下で業者に合理的な判断をさせていくためには政府が政権交代や景気変動に左右されない、確固とした姿勢を示し、政策に対する信憑性を回復することが必要である。 次にインセンティブであるが、環境共生型の社会資本整備を進めていくためには、現在の新設工事中心の投資内容を維持・補修工事中心の内容に改めていくと共に、環境に配慮した工事技術などの導入を進めていく必要がある。そのためには、こうした工事技術を収得することが業者にとってメリットとなるようなインセンティブを設けることが必要である。これまで受注業者選定などにおいて環境への配慮などの取り組みが適切に評価されてきたとはいいがたい。今後、公共投資の量的・質的変化が進んでいく中で、政府には必要とされる業者像、工事技術を明確に示し、そうした業者を適切に評価していくための仕組みを確立していくことが求められる。