- 著者
-
村山 顕人
小泉 秀樹
大方 潤一郎
- 出版者
- 公益社団法人 日本都市計画学会
- 雑誌
- 都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
- 巻号頁・発行日
- vol.38, no.3, pp.829-834, 2003-10-25
- 参考文献数
- 16
- 被引用文献数
-
2
都市空間計画の策定は、都市の現在そして未来の状況を見据えながら、市民、企業、政府、その他団体等の多様な主体の都市空間に対する要求を将来像として整合的・統括的にまとめ、その実現手段を確保する取り組みである。そして、その中心的作業は、様々な要求を両立させる空間的解決策を導出することであると言える。よって、魅力的な都市空間を創出するためには、計画策定において創造的な空間的解決策を導出する技法の開発が必要であるが、これまで、計画策定への多様な主体の関与を前提としてそうした技法に着目した研究はない。本研究では、米国オレゴン州ポートランド・セントラル・シティ計画(Portland Central City Plan:以下「CCP」と記す)策定の事例を取り上げ、そこで適用された空間的解決策の導出技法を特定・考察することを目的とする。 本研究では、CCPの計画策定関連資料を収集し、次の手順でそれらの分析を行う。まず、CCP策定過程の各段階において検討・提示された空間的解決策の内容を再整理する。次に、空間的解決策の進化及び関連報告書等の分析に基づき、空間的解決策を導出した過程・作業を整理する。そして、最後に、そこで適用された空間的解決策の導出技法を特定・考察する。 本研究で特定された空間的解決策の導出技法は次の通りである。 (1) 共通要素と非共通要素を俊別した計画案作成技法 文章で説明された提案の分析・空間化の過程では、提案の共通要素と非共通要素(複数の方向性があり得る要素)の俊別作業が行われた上で、共通要素が空間構造モデルとして図化され、それを前提に非共通要素が5つの代替計画案として整理された。なお、共通要素とされた内容は、継続・発展させる既存の施策、既決定の事業、主要開発・整備可能エリアの位置など、既に一定の合意が形成されていたと考えられるものであった。 (2) 代替計画案検討・提示技法 土地利用計画素案の作成に向けて市民運営委員会に提示された5つの代替計画案は、いずれも現実的な土地利用代替案で、提案の非共通要素の整合的な組み合わせ(取引と選択)を分かりやすく表現するものであった。その導出過程では、共通要素(空間構造モデル)への適合、非共通要素同士の並立可能性の確認、現況調査結果から抽出された土地利用現況、開発・再開発可能性、市場将来予測等の前提条件の充足の作業が行われていた。なお、代替計画案の最終的な構成・表現に関わる技法の特定は、公開資料の限界により断念せざるを得ず、今後の研究課題として残される。 (3) 選択肢絞り込み技法 選択肢絞り込みには、5つの代替計画案の選択肢絞り込みと土地利用計画素案の選択肢絞り込みという2つの段階が存在していた。前者では、I-5フリーウェイ移設提案の例のように、事務局が選択肢の評価を行い、市民運営委員会がその結果に基づく選択肢絞り込みの判断を行ったことが推察される。そして、後者では、事務局による評価が困難であった選択肢が幅広い市民に土地利用計画素案として提示され、それに対する意見に基づき、市民運営委員会が選択肢絞り込みの判断を行おうとしていたのであった。 (4) 過程設計技法 CCP策定が始まる前に市民運営委員会が市議会の指導の下で予め決定していた過程は概略的なものに過ぎず、本研究の分析対象に相当する「代替計画案の作成」部分の詳細な過程は予め決定されていなかった。空間構造モデル、5つの代替計画案、土地利用計画素案という段階的な空間的解決策の検討・提示を特徴とする詳細な過程とそこにおける市民運営委員会、事務局、幅広い市民の役割は、市民運営委員会において、ビジョン・目標・方針提案第1次案の完成後、決定されていた。提案の内容を踏まえて適切に詳細な過程を設計する技法は、市民運営委員会及び幅広い市民の合意形成を伴う段階的な空間的解決策の導出に大いに貢献したものと考えられる。