- 著者
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北浪 健太郎
岸井 隆幸
- 出版者
- 公益社団法人 日本都市計画学会
- 雑誌
- 都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
- 巻号頁・発行日
- vol.38, no.3, pp.85-90, 2003-10-25
- 参考文献数
- 4
- 被引用文献数
-
5
わが国最大規模の開発面積を誇る多摩ニュータウンも既に入居開始から30年が経過した。この多摩ニュータウンは高度経済成長期に「東京で働く勤労者向けに良質な住宅を大量に供給すること」を目的として出発したが、その後、時代の要請に対応しながら役割を見直し、今日では様々な機能を取り込んだ複合都市として整備されている。そして今、東京都施行の新住宅市街地開発事業が終了する等ニュータウンの開発に関する事業はいよいよ終息期をむかえようとしている。しかしながら一方では、初期に建設された住宅や施設の老朽化と居住者の急速な高齢化が進み、建築物の更新、増加する単身老人世帯への対応、学校の余剰・廃校問題等、新たな課題が顕在化しつつある。また、近年では転出者数が転入者数を上回る状況が続いており、都市機能の維持・成熟という観点でも陰りが見受けられる。 こうした事態の背景には、そもそもニュータウン入居者が一定の年齢層に偏っており、結果としてニュータウン全体の人口構成も「団塊の世代」(第1世代)と「その子供世代」(第2世代)に偏在していることがあるが、加えてこの第 2世代が近年、世帯分離のタイミングをむかえていることも状況を複雑にしていると考えられる。新しい課題に対応し、多摩ニュータウンを今後とも継続的に成長ないし成熟化させてゆく具体的な施策を検討するためにはこの第2世代の動向を的確に把握することが非常に重要である。 しかしこれまで地方都市の分析や世帯主に関する研究は行われているが、大都市ニュータウンの第2世代の住み替えを対象とした研究は実態把握の困難性もあってほとんど行われていない。そこで本研究では、第2世代が世帯分離後どのように住み替えを行っているのかを明らかにするために、アンケート調査を実施し、 (1)第1・第2世代の同別居状況 (2)第2世代の世帯分離後の住み替え先の傾向 (3)現在も第1世代と同居している第2世代のニュータウンへの定住意向、居住性の評価等 を明らかにし、ニュータウンで育った第2世代の住み替えの動向を把握することを目的とする。 調査方法としては、多摩市内のニュータウン区域には 59町丁目が存在するが、入居開始後に町名変更・編入が行われた町丁目並びに未だ人口定着が浅い人口 100人未満の町丁目と土地区画整理事業区域内の町丁目を除くと、結果的に19町丁目を抽出し、アンケートは各戸のポストへ投函・郵送回収で行った。また、アンケート記入対象者と主な質問内容は記入者の属性と同別居状況、別居の場合はその理由を聞いた上で、既に別居している場合は現在の世帯主(第1世代)に対して第2世代の住み替え先を、同居している場合は18歳以上の第2世代に対してニュータウンの居住性等を問う質問に答えて頂くように設定した。 分析方法としては、 (1)把握できた724人の第2世代に対して数量化_III_類を用いて類型化し、同別居状況についての特徴を導く。 (2)別居者の住み替え先と、多摩市全体の転出者の転出先を比較する。また「年代」と「別居理由」から特徴を導く。 (3)第1世代と同居している第2世代のニュータウンの居住性評価の特徴を分析する。 調査結果としては、 (1)第2世代の別居時期は、住宅所有関係で違いがあり、「借家」の方が「持家」に比べて別居する時期が早い。 (2)多摩市の転出者は一般に「23区以外の東京都」に多く移り住んでいるのに対して、第2世代は、「周辺県」や「都内23区内」にも多く移り住んでいる。 (3)年齢が「20代」「30代」の第2世代で「一人暮らしを希望」して別居した人は「都内 23区内」に住み替える割合が高く、特に多摩ニュータウンまで直接乗り入れている京王、小田急線沿線に住み替えている人が多い。 (4)現在も同居している第 2世代のニュータウンに対する愛着や住み良さの評価は高い。特に「10代」「40代」の居住性評価は非常に高い。しかし「20代」「30代」になると都心の利便性等との比較において否定的な評価が増加する。 また、同居第2世代の定住意向は多摩市政世論の結果よりも低い水準であり、今後も引き続き「20代」「30代」となった第2世代が多摩ニュータウンから離れて行く可能性は高い。その際にはニュータウン区域から「都内23区内」、「京王線小田急線沿線」への住み替えが起こる可能性が極めて高いことがわかった。