- 著者
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野中 直子
- 出版者
- Showa University Dental Society
- 雑誌
- 昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.2, pp.135-149, 1998-06-30
- 被引用文献数
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5
骨層板が積層して構築されている成熟骨では緻密質内にはコラーゲン細線維がほぼ一定の方式にかなって配列されている.すなわち, 骨層板内のコラーゲン細線維の配列の主方向は骨に作用する応力の方向と一致していて, 骨組織に加わる牽引や歪みに抵抗しうる力学的合理性をもった配列を呈すると考えられている.一方, 海綿質の骨小柱は圧迫に抵抗するように応力線に一致した配列を示しており, 骨全体としての力学的強度の支えとなっている.下顎骨においても外形の異なった骨と共通の内部構造を備えている.下顎骨には筋の作用による牽引力が他の形態の骨と同様に加わるが, 歯からの咀嚼圧も応力として加わり, 成人の下顎骨を構成している骨層板は咀嚼筋による牽引や咀嚼力に適合した構築を呈していると考えられている.本研究では下顎骨の緻密質の骨層板を構築しているコラーゲン細線維と, 下顎骨に加わる応力とについて検討する目的で, 解剖学実習用男性遺体の若年者から摘出した有歯下顎骨の基質線維構築を高分解能の走査電子顕微鏡で観察した結果を考察した.若年者の下顎骨の外基礎層板の最表層は全域が束状のコラーゲン細線維からなる基質線維束で構築されていたが, 基質線維束は下顎骨の各部では骨に加わる応力に適合した配列を呈していた.歯槽縁は密に配列された近遠心方向に走向する基質線維束からなっていたが, 基質線維束は上前方から下後方への配列に変化して歯槽部を構築する線維束に移行していた.歯槽部はほぼ上下方向または上前方から下後方に配列された基質線維束で構築されていた.歯槽部から下顎体部への移行部では上前方から下後方に走向する基質線維束は下顎体部では近遠心的な配列になる.下顎体部はほぼ近遠心方向に走向する基質線維束で構築されており, 下顎底部も下顎骨の下縁に平行な近遠心的な配列を示す基質線維束からなっていた.下顎体内側壁では顎舌骨筋線の上部は上前方から下後方に走向する基質線維束で構築されていたが, 下後方への基質線維束は顎舌骨筋線上で近遠心方向に配列された線維束に移行していた.咬筋粗面では基質線維束の間隙に咬筋の腱が数多く侵入していた.外基礎層板では最外層は基質線維束がほぼ近遠心方向に配列された約2.5μmの厚さの層板からなっており, 隣接する層板は約1μmの厚さで基質線維束はほぼ上下方向に配列されていた.外基礎層板では基質線維束の走向の異なる層板が交互に積層されていた.ハバース層板を構成する骨単位は約4μmの厚さの層板と約1μmの厚さの層板とが交互に配列されていた.骨単位を構成する厚さ約4μmの層板内の基質線維束はほぼ長軸方向に配列されており, 厚さ約1μmの層板内の基質線維束は同心円状の走向を呈していた.骨単位の各層板内では基質線維束は平行に配列されているが, 隣接した層板問では基質線維束は斜めに交叉していた.