著者
江川 薫 野中 直子 星野 睦代 高野 真 滝口 励司
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.74-85, 1999-03-31
被引用文献数
1

骨を構築する基質線維は, 圧縮, 牽引, 歪み, 振れなどの応力に対抗するための適合性をもった配列を呈している.骨に加わる応力と骨層板および線維性基質の配列との係わりを検討する目的で, 解剖学実習用男性遺体の脛骨を用いて, 基質線維の配列を高分解能の走査電子顕微鏡で立体的に観察した.緻密骨層板の表層基質線維を観察するための試料は, 実体顕微鏡下で外骨膜の線維層を剥離した.基礎層板とハバース層板の線維性基質を観察するための試料は, 緻密骨の水平断面と垂直断面を作製して, 切断面の研磨を行った.すべての試料はEDTAで脱灰を施し, トリプシン処理後, 導電染色, 上昇アルコール系列による脱水, 液化炭酸ガスによる臨界点乾燥, 白金-パラジウムのイオンスパッタコーティングの後, 電界放射型走査電子顕微鏡で観察した.筋の付着がない脛骨体内側面の外基礎層板の最表層は大部分が骨の長軸方向に配列された基質線維束で構築されていた.脛骨体外側面の中央部の基質線維束も骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体外側縁には約500μmの幅で骨間膜が基質線維束に侵入していた.脛骨体近位端外側面の最表層基質は交錯した基質線維束で構築され, 基質線維東間には前脛骨筋および縫工筋の腱が侵入していた.脛骨体前縁では基質線維束の大部分は骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体後面の近位骨幹端の最表層は交錯した基質線維束で構成されていた.後面中央部および下部の最表層の基質線維束はほぼ骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体の内表面の最表層は大部分が骨の長軸方向に配列された基質線維束で構築されていた.脛骨体の外基礎層板では約5μmの厚さの層板と約3μmの厚さの層板が交互に配列されており, 交互に隣接している層板の基質線維束はやや斜めに交叉していた.ハバース層板を構成する基質線維束はほぼ上下方向に配列された基質線維束からなる厚さ約4μmの層板と, 基質線維束がほぼ同心円状に配列された厚さ約2μmの層板とが交互に配列されていた
著者
野中 直子
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.135-149, 1998-06-30
被引用文献数
5

骨層板が積層して構築されている成熟骨では緻密質内にはコラーゲン細線維がほぼ一定の方式にかなって配列されている.すなわち, 骨層板内のコラーゲン細線維の配列の主方向は骨に作用する応力の方向と一致していて, 骨組織に加わる牽引や歪みに抵抗しうる力学的合理性をもった配列を呈すると考えられている.一方, 海綿質の骨小柱は圧迫に抵抗するように応力線に一致した配列を示しており, 骨全体としての力学的強度の支えとなっている.下顎骨においても外形の異なった骨と共通の内部構造を備えている.下顎骨には筋の作用による牽引力が他の形態の骨と同様に加わるが, 歯からの咀嚼圧も応力として加わり, 成人の下顎骨を構成している骨層板は咀嚼筋による牽引や咀嚼力に適合した構築を呈していると考えられている.本研究では下顎骨の緻密質の骨層板を構築しているコラーゲン細線維と, 下顎骨に加わる応力とについて検討する目的で, 解剖学実習用男性遺体の若年者から摘出した有歯下顎骨の基質線維構築を高分解能の走査電子顕微鏡で観察した結果を考察した.若年者の下顎骨の外基礎層板の最表層は全域が束状のコラーゲン細線維からなる基質線維束で構築されていたが, 基質線維束は下顎骨の各部では骨に加わる応力に適合した配列を呈していた.歯槽縁は密に配列された近遠心方向に走向する基質線維束からなっていたが, 基質線維束は上前方から下後方への配列に変化して歯槽部を構築する線維束に移行していた.歯槽部はほぼ上下方向または上前方から下後方に配列された基質線維束で構築されていた.歯槽部から下顎体部への移行部では上前方から下後方に走向する基質線維束は下顎体部では近遠心的な配列になる.下顎体部はほぼ近遠心方向に走向する基質線維束で構築されており, 下顎底部も下顎骨の下縁に平行な近遠心的な配列を示す基質線維束からなっていた.下顎体内側壁では顎舌骨筋線の上部は上前方から下後方に走向する基質線維束で構築されていたが, 下後方への基質線維束は顎舌骨筋線上で近遠心方向に配列された線維束に移行していた.咬筋粗面では基質線維束の間隙に咬筋の腱が数多く侵入していた.外基礎層板では最外層は基質線維束がほぼ近遠心方向に配列された約2.5μmの厚さの層板からなっており, 隣接する層板は約1μmの厚さで基質線維束はほぼ上下方向に配列されていた.外基礎層板では基質線維束の走向の異なる層板が交互に積層されていた.ハバース層板を構成する骨単位は約4μmの厚さの層板と約1μmの厚さの層板とが交互に配列されていた.骨単位を構成する厚さ約4μmの層板内の基質線維束はほぼ長軸方向に配列されており, 厚さ約1μmの層板内の基質線維束は同心円状の走向を呈していた.骨単位の各層板内では基質線維束は平行に配列されているが, 隣接した層板問では基質線維束は斜めに交叉していた.
著者
佐野 恒吉 江川 薫 野中 直子 滝口 励司
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.343-352, 1999-12-30
被引用文献数
1

硬組織の形成部位のカルシウム (Ca) やリン (P) の含有量を定量分析する方法ではエネルギー分散型X線検出器 (EDX) を用いる方法が分析例の多さ, 試料の扱い, そして分析精度の点で現在のところ最も優れた方法である.しかし, 歯科領域の分析ではCaとP濃度は同時に測定されることが多く, EDXの通常の設定では, 硬組織, 特に歯の象牙質における管間及び管周象牙質などのように, 分析したい部位が必ずしもCaやPのX線発生領域よりも広くない場合が多い.本研究では, このEDXが据付られた走査電子顕微鏡S-2500CX (日立) で, 硬組織上にどの程度まで小さな分析領域を取ることができるかを, 加速電圧の変化に伴う試料中のX線発生領域の変動と試料の分析面を傾斜させることにより分析値の変化を観察した.そして, これらの結果を基に, 走査電子顕微鏡 (SEM) の分析仕様の限界の7kVの加速電圧で, ラットの下顎の切歯断面の象牙質の表面をX線検出器に向かって角度27.5°に傾斜させてX線分析領域を最小にして, CaとPを分析できた.最初は, 象牙質の唇側の管間及び管周象牙質でSEMの加速電圧の違いによる分析値の変化を観察するため, 加速電圧が7と10kVそして15kVでCaとPの含有量の分析を行った.この唇側の結果から加速電圧が7kVで最も正確な濃度が得られたが, 10kVのときの値に対して有意な違いがなかった.次に, 加速電圧7kVの唇側の結果に合わせて舌側とその中間の近心側と遠心側の管間及び管周象牙質も同様に分析した.その結果, 管周象牙質のCa及びP濃度に有意差が見られず, エナメル質に関連する唇側の管周象牙質のCa含有量は舌側管周象牙質より高かった.