- 著者
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野間 万里子
- 出版者
- 富民協会
- 雑誌
- 農林業問題研究 (ISSN:03888525)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, no.1, pp.60-65, 2011-06-25
- 被引用文献数
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筆者はこれまで近代日本における肉食受容について研究を行うなかで、①牛鍋という消費形態で受容されたこと、②文明開化期の牛鍋ブームが広範に存在した役牛を利用することで可能になったこと、③明治後期には役肉兼用という制約を受けながらも肥育技術が展開し脂肪交雑の入った高品質な牛肉生産が目指されるようになったこと、を明らかにしてきた. 本稿では、文明開花期以降2度目の肉食拡大・普及の画期とされる日露戦争が食肉生産・供給に与えた影響を明らかにすることを目的とする.日本近代における肉食に日露戦争が与えたインパクトとしてはこれまで、従軍経験=肉食経験として地方への肉食拡大の消費側の要因として言及されてきた. 供給サイドへの影響としては、これまでにも国内畜牛業への打撃と、それへの対応としての朝鮮牛輸入が指摘されている.たとえば大江は「戦時軍需による大量屠殺が役牛飼育にいかに深刻な影響をあたえ、しかも飼育頭数の戦前水準を回復するに5年間を要するとともに、戦時屠殺による飼育頭数の絶対数の減少分の実に44.5%を輸入に依存しなければならなかった」としている. 輸入にかんしては、日露戦後の朝鮮牛輸入の本格化と、第一次世界大戦内でのドイツとの戦争(日独戦争)による膠州湾租借地獲得後の山東牛移入開始についての制度的、数量的研究がなされている. 本研究では視点を内地に置き、対象時期は、食の変化は時間差を伴って現れるものであるため、日露戦時から昭和戦前期までとする.