著者
松嶋 卯月
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-37, 2001-12-01

本研究は,無極性ガスを利用して切り花の鮮度保持を行うことを目的として行われた。緒論において述べたように,無極性ガスは切り花内に溶解すると,細胞内の水が構造化し,生体反応が抑制され鮮度保持効果が得られると考えられ,オレンジキャンドル種のカーネーション切り花で効果が確認されている。本論ではとくに,水の構造化によって水の動きが変化することに着目し,主として,切り花内の水移動の変化という観点から,無極性ガスによる水の構造化の鮮度保持効果を解明することを目的とした。以下に各章ごとの要約を述べる。1 切り花からの無極性ガスの脱離速度(第2章要約) 無極性ガスを利用した保存法のカーネーション切り花に対する適用性を明らかにするために,まず,切り花体内において無極性ガスによる水の構造化がどの程度持続するかを検討する必要がある。ここでは,無極性ガスの溶解の状態をその脱離過程から明らかにすることを目的とした。実験の結果以下のことが確認された。1) 切り花および水からの脱離過程は,いずれも2次の反応速度式で回帰された。以下,切り花からの脱離過程を水と同様の単純な界面からの脱離であると仮定し,両者の比較をおこなった。2) 水からの脱離速度は,脱離表面積に比例した。一方,切り花の脱離表面積と速度定数の比例関係は,比例定数が水とほぼ同じである例と,その約1/3程度低い値である例が見られた。両者の差は,切り花の生理的状態によって脱離する表面積が変化するためと考えられた。3) 切り花の脱離過程は2時間から3時間の間でほぼ終了した。よって,その後のキセノン処理の効果は,大気下において,水に飽和して溶解しているキセノン,および,生体高分子の疎水基近傍で会合しているキセノンによると考えられた。2 切り花内部における水の動的状態(第3章要約) 本章では,無極性ガスによる水の構造化が切り花内の水の動的状態に与える影響を明らかにするために,^1H-NMRによる縦緩和時間T_1の測定を行った。測定の結果以下のことが明らかになった。1) 切り花子房部の平均的T_1は,約0.4秒から0.8秒の間にあり,時間の経過に伴い長くなった。しかし,48時間にわたってキセノン処理区のT_1は対照区より小さな値を示し,無極性ガスによる水の構造化によって,組織内の水の束縛が強くなったと考えられた。2) 上記の平均的T_1を得た同一のデータについて2つの指数近似式を用い解析した結果,0.1秒から0.3秒の範囲および0.4秒から0.8秒の範囲にある2種類のT_1が得られた。短いT_1を持つ水成分(以下I成分と称す)は水の束縛が強い部分,また,長いT_1を持つ成分(以下II成分と称す)は水の束縛が弱い部分の水の動的状態を示すと考えられた。対照区ではII成分のT_1が長くなったが,キセノン処理区では顕著な変化が見られなかった。3) 試料中の全プロトンに対する成分IIの存在割合では,対照区において時間の経過に伴い増減が観察された。キセノン処理区では,成分IIの存在割合の変化は低く抑えられた。これは,細胞の老化および細胞内の液胞と原形質間の水移動の抑制を示すと推察された。3 無極性ガスによる水ストレスの抑制効果(第4章要約) 本章では,第3章の結果を受け,水の構造化によって切り花内部の水移動が低減すると仮定し,切り花の水ストレスの抑制効果として働く可能性について検討した。中性子イメージングによる結果を以下に示す。1) 中性子イメージングによって,カーネーション切り花の水分分布を解析可能である良好な画像を得ることができた。2) 0.5,0.6,0.7MPaのキセノン処理区では,水ストレス下においても階調値の最頻値は対応する対照区より明るい階調に存在し,切り花内の水分量が多いことが示された。その結果,無極性ガスによる処理は,対照区と比較して切り花内の水が保持されることが明らかになった。特に,子房部において水が保持される傾向が顕著であった。3) 水分分布の等高線図の経時変化,および階調値の累積相対度数分布曲線の経時変化では,キセノン処理区が対照区と比較してカーネーション切り花内部の水分量が増加する傾向が顕著であった。すなわち,無極性ガスによって初期の吸水能力が維持されたと考えられた。4 無極性ガスによる処理を行った切り花の生理的応答(第5章要約) 本保存法の効果を総合的に判断するために,無極性ガスによる水の構造化が切り花の生理的状態に与える影響を明らかにすることを目的とした。特に,水の構造化による水移動の変化と生理的状態変化との関係を明らかにするために,切り花の蒸散速度および吸水速度と,生理的状態と密接な関係にある呼吸速度を連続および非破壊で計測するシステムを構築し計測を行った。計測の結果以下のことが明らかになった。1) 本章で試料として使用したカーネーション切り花フランセスコ種はクライマクテリック上昇型の花卉であることが確認された。2) キセノン処

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