著者
吉田 茂
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-123, 1983-11-19

The Purpose of this study is to analyze the economic structure of local, regional and national hog markets in the self-sufficient region. In Okinawa, the local and regional hog markets play a very important role compared with the national hog market. Therefore, in this study the market economic conditions for the local and regional hog markets in Okinawa were made clear. The hog marketing in Okinawa was chosen as the subject of the study of the following reasons : Hog production is one of the most important income sources for the agriculture in Okinawa and also pork is the most popular and has the most important position among meat. While the hog market in other areas is characterized by the national market, that in Okinawa depends mainly on the local and regional markets traditionally. The outline of the discussion of this study is as follows : 1. Consumption structure The quantity of pork consumption per person a year in Okinawa is larger than that of national average. For example, the quantity of pork consumption per person a year in Okinawa in 1979 was 7.9 kilograms which exceeded about 50% that of national average. And the percentage of the quantity of pork consumption in the whole meat of national average is 47% while that in Okinawa is 57%. 2. Production structure The percentage of hog farmers in the whole farmers in Okinawa is larger than that of national average, however hog numbers on a farm in Okinawa are smaller than those of national average. There exist still many small sized hog farmers in Okinawa. A small number of hogs is produced by agricultural holdings other than farm households in Okinawa in comparison with that of national average. The hog production cost in Okinawa is higher than that outside of the prefecture. Higher feed prices and laber costs in Okinawa than in other areas bring about this situation. In Okinawa, small sized hogs are produced and sold locally, on the contrary, in other areas, consumers prefer large sized hogs to small sized hogs. Therefore, it is difficult to sell hogs produced in Okinawa to other areas. 3. Market structure One of the characteristics of the hog and pork marketing in Okinawa is that a slaughterer performs most of the hog and pork marketing functions between the producer and the consumer. Areas where a slaughterer buys hogs and sells pork are usually fixed in the local and regional markets. Therefore, there are no marketing routes formed for the national market. Hog market in Okinawa (regional market) is composed of three local market areas individually. They are Okinawa Island market area, Miyako Island market area, and Ishigaki Island market area. Hogs produced in one local market area are usually consumed within that area. In the case of shortage or surplus of hogs in one area, that area enters into business with other area to keep the balance of supply and demand for hogs. When the hog supply and demand in the regional market is out of balance, the regional market will be spread out into the national market for the adjustment of the unbalance of supply and demand. 4. Price Hog prices on farms in Okinawa are higher than those of national average, but the difference is not big enough to import hogs to Okinawa from other areas. 5. Adjustment policy of supply and demand Several export subsidy systems have been putting into operation to keep the balance of supply and demand for hogs in case of an oversupply of hogs in Okinawa. For example, there was "The hog price stability act" before the reversion to Japan and there are many assistant programs for hog by "Okinawa Prefecture Livestock Corporation" after the reversion to Japan.
著者
翁長 謙良 吉永 安俊 趙 廷寧
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.149-155, 1998-12-01

歩測は現在まで依然として重要な測量方法の一つである。歩幅を確定し, 身長との関係を明らかにすることは, 人間の体型と歩行習慣を知る上で, また, 野外調査などにおける概略の測距に便利である。1985年から学生の測量実習を通じて, 琉球大学農学部に在学中の男子190名, 女子46名の身長と歩幅の資料を収集し, それらの相関について検証した。本研究では, 多元回帰分析方法によって, 身長による歩幅の予測式を作成し, 下記の結果を得た。男子 : Y=0.38X+0.09(r=0.738) 女子 : Y=0.36X+0.16(r=0.754) 全体 : Y=0.26X+0.31(r=0.706)
著者
中須賀 常雄
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.413-519, 1979-12-11
被引用文献数
7

マングローブ林は熱帯および亜熱帯の海岸および河口の泥土上に生育する特殊な群落である。本群落は日本では九州本島南端の鹿児島県を北限とし, 南下するにつれて発達し, 南限の西表島で最も発達した群落を形成している。本論文ではこれまでほとんど明らかにされていなかった日本各地の大小のマングローブ分布地の確認, 分布状況の調査をおこない, 更に方形区調査も合せておこなった。即ち, 九州本島, 種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島, 久米島, 宮古島, 伊良部島, 石垣島, 小浜島および西表島の各島において生育地を確認し, 各生育地では生育樹種およびその生育状況(胸高および根元直径, 樹高, 生殖器官の有無)および生育面積について調査した。次に種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島, 石垣島および西表島の各生育地に合計73箇の調査区を設定し, マングローブ林の林分構造を明らかにした。また, これらの調査区において生立木の平面的個体分布の解析をおこない, 更にこの結果よりマングローブ林の成立および発達過程について考察をおこなった。現存量に関する調査は沖縄本島のメヒルギ林と石垣島のオヒルギ林およびヤエヤマヒルギ林において層別刈取法を使って現存量測定をおこない, これら林分の現存量および生産構造について解明した。以上のマングローブ林の分布状況と林分構造およびその成立, 発達過程, 現存量についての調査研究は総合的な観点からの解析, 考察より次のようにまとめられた。1.日本に分布するマングローブ構成種はメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシ, ヒルギモドキ, マヤプシギ, ニツパヤシの7種である。2.日本におけるマングローブ分布地は九州本島に3箇所, 種子島に4箇所, 屋久島に1箇所, 奄美大島に3箇所, 沖縄本島に34箇所, 久米島に1箇所, 宮古島に5箇所, 伊良部島に2箇所, 石垣島に30箇所, 小浜島に1箇所および西表島に24箇所, 合計108箇所である。なお, この他に南大東島に1箇所マングローブ分布地がある。3.日本のマングローブ生育北限地は鹿児島県川辺郡大浦町である。これは世界的にみても分布北限にあたる。各マングローブ種の自生北限はメヒルギが種子島西之表市湊, オヒルギが奄美大島住用村, ヤエヤマヒルギが沖縄本島東村, ヒルギモドキが沖縄本島金武村, ヒルギダマシが宮古島平良市島尻, マヤプシギが八重山群島の小浜島である。ニッパヤシが西表島の船浦である。4.日本における各マングローブ種の生育地を北から南へみてゆくと, 九州本島, 種子島および屋久島にはメヒルギのみ, 奄美大島にはメヒルギとオヒルギ, 沖縄本島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギモドキの4種, 宮古島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシの4種, 石垣島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシ, ヒルギモドキの5種, 西表島には上記5種にマヤプシギとニッパヤシを加えた7種が分布している。沖縄本島以北の生育地ではメヒルギが優占し石垣島と小浜島および西表島ではオヒルギが優占している。宮古島と伊良部島はその中間に位置し, 特に優占する種は認められない。従って, 日本のマングローブ林は九州本島, 種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島および久米島がメヒルギ優占地域, 石垣島と小浜島, および西表島がオヒルギ優占地域という2つの地域に区分される。また, マングローブ林は林床に他の植生を有せず, 既に述べたマングローブ種のみから成りたっている。5.メヒルギおよびオヒルギはその生育個所から樹形の違いを加えて異なる型に区分された。メヒルギではメヒルギI型は海側前面および流路側林縁に生育するもので矮生で前縁型とした。メヒルギII型はメヒルギI型とメヒルギIII型との中間の生育個所を占め, 中間的樹形を示し中間型である。メヒルギIII型は最も内陸側に生育するもので樹高の高いもので内陸型である。オヒルギはマングローブ林において普通最も内陸側に生育することが認められたが, 海岸側前面に生育する矮生のものも生育している。前者は内陸型, 後者は前縁型と区分された。6.マングローブ林は上層を占める主要種から種々の林分型に区分される。メヒルギ優占地域のマングローブ林は1)メヒルギI型2)メヒルギII型3)メヒルギIII型4)メヒルギ・オヒルギ型5)メヒルギ・(オヒルギ)型6)オヒルギ・(メヒルギ)型7)オヒルギ型8)ヤエヤマヒルギ型の8林分型に区分された。また, 同様にオヒルギ優占地域のマングローブ林は1)オヒルギ型2)ヤエヤマヒルギ型3)ヤエヤマヒルギ・オヒルギ型4)メヒルギ型5)マヤプシギ型6)ヒルギダマシ型の6林分型に区分された。7マングローブ林において構成種のすみわけが海岸または流路から内陸へ向って認められた。メヒルギ優占地域ではヤエヤマヒルギ・ヒルギモドキ⟶メヒルギ・オヒルギの順である。前述のメヒルギ区分ではメヒルギはメヒルギI型⟶メヒルギII型⟶メヒ
著者
金城 政勝 東 清二
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.311-316, 1991-12-04

1. 西表島に分布する8属9種のセミの分布を種ごとに図示した。ヤエヤマニイニイの分布は,リュウキュウマツの分布と重なることが多い。リュウキュウクマゼミは島の周縁部の林や,里山に生息する平地性のセミである。ヤエヤマクマゼミ,イワサキヒメハルゼミ,タイワンヒグラシの3種は,里山から内陸部の林地に見られ,イシガキヒグラシは内陸部の原生林のみに見られた。イワサキゼミは各地に見られる広域分布型であり,ツマグロゼミの分布域は狭いようである。イワサキクサゼミは道路沿いのイネ科草地の種である。2. 西表島では,3月から12月までの10ヶ月間,いずれかのセミが見られ,7,8,9月の3ヶ月に発生する種の多いことがわかった。西表島のセミの出現期を沖縄の他の種と比較すると,出現期の遅れる種があることがわかった。3. 1988年9月12日,船浦において5種のセミの発音日周活動を調査し,その結果を示した。
著者
平山 琢二 田崎 駿平 藤原 望 眞榮田 知美 大泰司 紀之 Hirayama Takuji Tasaki Shumpei Fujiwara Nozomi Maeda Tomomi Ohtaishi Noriyuki
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.59, pp.25-27, 2012-12

The dugong trenches in the coast of Iriomote Island were investigated. The luxuriance of seagrasses in the western coast of Iriomote Island was higher than seagrasses in Okinawa Island. And many kinds of species of the seagrasses were observated (two family, six genus, eight species). The field investigated in this time was more large area and very well. Therefore, the side of diversity of living thing, the western coast of Iriomote Island was most important area. And, this coast has profusion of the Food of dougong dugon. But in this investigation, we were not able to check dugong trench in the coast of Iriomote Island. Therefore, it was guessed that a possibility that, as for us, the dugong inhabits the Iriomote island was low.西表島周辺におけるジュゴンの定着の可能性について調査する目的で、ジュゴンによる食痕調査およびジュゴンに関する伝聞や目撃情報などの聞き取り調査を行った。食痕調査では4地域を行った。また、聞き取り調査では石垣島およひ西表島で計41名を対象に行った。ジュゴンの食痕調査では、いずれの地域においてもジュゴンによる食痕は確認できなかった。また、ジュゴンの目撃に関する情報は、石垣島およひ西表島ともに全くなかった。伝聞に関しては30件の情報を得た。このようなことから、今回のジュゴンの食痕調査および聞き取り調査から、現在は西表島周辺にジュゴンは定着していないと思われた。しかし、かつてジュゴンが棲息していた地域における海草藻場の広がりは極めて良好であり、南西諸島海洋の生物多様性の面からも非常に重要な地域である。西表島西岸は、定期船の往来も少なく、良好な藻場を有していることから、西表島におけるジュゴン定着の可能性は極めて高いものと推察された。
著者
翁長 謙良
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.111-209, 1986-12-05
被引用文献数
10

農地における土壌侵食現象に関しては国の内外を問わず古くから大きな社会問題とされてきた。侵食の機構やその対策に関してはこれまでも世界各地で多くの研究があるが, 各地域によって侵食要因の特性が異なり, その間に普遍性は見出せない。これは侵食量に影響をおよぼす各因子が複雑に錯綜するので, 定量的把握は困難であることによる。したがって侵食度の高い沖縄地方においても現地に即した研究が必要である。本研究は沖縄島北部地方の降雨侵食の要因についての実態調査に基づく実証的研究である。まず沖縄島北部地方における侵食の概況について記述する。沖縄島の地形, 地質を概観すると, 中南部は緩傾斜地であるが, 北部は山岳地帯でミクロ的には傾斜地が多く, 谷密度が高い。従って降雨による表流水は速やかに河海に達する。また土壌は, 受食性の高い赤・黄色土が卓越しており, 降雨量も中南部より多く, 年雨量の平均が約2,300mmである。このような自然条件の下で区画の大きい農地を造成する際は改良山成工が採用されるので土壌の大量移動が伴う。従って土壌構造が破壊され, 脆弱化され, 降雨による分散, 表流水の運搬に対する抵抗性が弱くなる。しかも, 受食性作物とされるパイナップルが植栽されているので侵食は益々受け易くなる。以上のように沖縄島北部地方は降雨による土壌侵食性のポテンシャルが高い。このことを現場における実態調査結果から要約するとつぎのとおりである。農地の造成中は, 砂防施設等の滞砂や濁水浄化の機能が十分に発揮されてなく, 大量の土砂が河川や沿岸に流失し流域環境の悪化を招いている。河川の中流域で浮遊土砂量を観測した結果, 1雨(97mm)で100トン余に上る土砂量(乾燥重量)が流亡した事例があり, 造成初期の畑地において, 600mmの雨により, 2haの圃場から433m^3の土砂流亡が観測され, 造成後やや落着いた農地からでも5ケ月間で1,000mmの雨量によりその表土層が1.1cmも侵食される事例もある。さらにパイナップル畑での流出水の濁度観測では濁度のピークが10,000ppmにも達することも認められ, 土壌侵食はかなり顕著に出現している。侵食の実態調査結果からこのような現象を出現させる要因を検討すると, 人為的作用によるほかは, 主として土性, 降雨, 傾斜要因であることが考えられたので, これらの要因についての解析結果をつぎに述べる。(1)土性 沖縄地方は湿潤亜熱帯のアジアモンスーン地域に位置している。それ故その地域の気候を反映して本土と異なる特殊な土壌(赤黄色土 : 国頭マージ)が分布している。中でも沖縄島北部や石垣島, 西表島などではこの種の土壌が卓越している。国頭マージは沖縄県の国頭(北部)地方に分布する赤い土という意味の沖縄方言による呼称であるが, 土壌の大分類では赤色土・黄色土とされている。細分類としては13の土壌統に区分され, それぞれの特徴づけがなされているが, 造成・整備農地ではその性質が異なる種々の土壌が混在している場合が多い。したがって物理性の記述に関しては国頭マージとして扱った。この土壌の侵食に関与する2,3の物理性について広範な調査に基づき, 粘土含有量, 団粒化度, 分散率, 浸入能を検討すると次の結果が得られた。1)粘土含有量は9.0∿58.5%の広い範囲にまたがっており, 土性が砂土から植土まで多岐にわたっている。2)沖縄の主要な土壌について団粒化度を調べた。その結果島尻マージ(暗赤色土)10試料中, ジャーガル(灰色台地土)8試料中については団粒化度80%以上のものがそれぞれ9試料, 6試料であったのに対し国頭マージは35試料中わずかに7試料であり, 耐水性団粒が極めて少ないことがわかった。3)分散率について, わが国の基準にしたがって分類すると, 分散率が40以上の受食性域にある土壌は国頭マージ, ジャーガル, 島尻マージでそれぞれ, 34試料中16,13試料中4,22試料中2であった。4)浸入能について本州土壌のそれと比較すると浸入の初期においては大差はないが時間の経過につれて小さくなり, ベーシックインテークレートはかなり低くなる。なお4時間後の浸入能を比較すると国頭マージ(4試料)では7mm/h∿95mm/hの範囲にあるが本州土壌(5試料)では81mm/h∿360mm/hの範囲にある。また現地裸地圃場での散水インテークの試験結果では畑面勾配が3°, 降雨強度65mm/hのとき耕起, 不耕起別の浸入能は散水開始後それぞれ, 17∿18分, 12∿13分で, 降雨強度以下になり表面流出が見られた。さらにパイン畑では9mmの雨でも大量の流亡土が観測されるなど, 圃場条件によってもかなりの差があることが認められた。以上によりこの地方のとくにパイナップル畑では土壌の受食性が高いことが明らかになった。(2)降雨エネルギー 降雨の侵食能力はそのエネルギーである。このエネルギーは雨滴の分布型と降雨強度に左右され, 当然, 地域特性をもつものである。沖縄の降雨に関して約12万個の採取雨滴の
著者
野瀬 昭博
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-70, 1986-12-05
被引用文献数
1

パインアップルは, 沖縄においてサトウキビにつぐ主幹作物のひとつである。当作物は, Crassulacean acid metabolism(CAM)植物に属する数少ない作物のひとつでもある。CAMとは, 高等植物に認められる3種類の炭素固定経路のひとつで, そのCO_2吸収が夜間に行なわれることなどから, 乾燥地適応型の炭素固定経路として知られている。当経路はC_4光合成の発見にともなって注目され始めたもので, 光合成経路として研究され始めたのは1970年代になってである。パインアップルも含めたCAM植物の物質生産機構については, 不明な点が多く残されている。CAM植物の生産性は一般に低い状態にあるが, パインアップルは通常の作物に匹敵するような高い生産性を示す植物である。本研究においては, 植物の物質生産において最も基本的な現象である, 光強度とパインアップルのCAM型光合成の関係についてとりあげた。この光強度とCAM型光合成の関係は, 以下に述べる研究の基本的な手段として組み入れた。次に, 日長とCAM型光合成の関係をとりあげ, 日長と日射量の両面から光環境の問題に検討を加えた。CAM型光合成は, 乾燥地適応型炭素獲得系と考えられることから, 土壌水分条件とCAM型光合成の関係について調査した。また, 近代農業技術の基本ともいうべき窒素栄養の問題をとりあげ, 根圏と葉内の窒素濃度がCAM型光合成に及ぼす影響を調査した。さらに, パインアップルのCAM型光合成における炭素フローとその基本的な制御機構について考察を加えたのち, パインアップルの物質生産の制御とその限界について論じた。最後に, 沖縄におけるパインアップル栽培について, 本研究の成果に基づき物質生産の観点から, 日射環境に重きをおいて検討を加えた。本研究で得られた結果は以下のとおりである。1.明期の光強度とCAM型光合成の関係 1)明期の平均光強度が上昇すると, 明期におけるCO_2放出速度が小さくなり, CO_2放出期間(phase 3)も短くなった。さらに, 明期の後半(phase 4)のCO_2吸収と, 暗期の(phase 1)のCO_2吸収速度も増大した。その結果, 1日のCO_2収支は, 明期の平均光強度が30∿40klxに達するまで, 光強度の上昇に伴い増大し, その後に定常値に達した。2)昼の日射量の増大は, 昼の終わりの葉内のリンゴ酸レベルを低くし, 夜の終わりのリンゴ酸レベルを高くするような様式で, リンゴ酸の日変化に影響を与えた。昼のリンゴ酸消失速度は, 100∿150cal/cm^2/5hの日射量の下で定常値に達した。夜のリンゴ酸蓄積量の増大は, 昼の日射量の上昇とともに生じた。しかし, 本研究の範囲では, 上限値を認めることはできなかった。昼のリンゴ酸消失速度が定常値に達した100∿150cal/cm^2/5hという日射量は, 平均20∿30klxの照度に対応し, CO_2交換の実験室内で得た飽和光強度とよく対応した値であった。2.日長がCAM型光合成に及ぼす影響 パインアップルのCAM型CO_2交換は, 短日条件下で活発になった。短日条件下においては1日のCO_2収支が増大し, この増大はphase 1のCO_2収支の増大を通して行なわれた。長日条件下においては, phase 4でのCO_2吸収速度が活発になったが, 1日のCO_2収支は低下した。短日条件下におけるCO_2吸収の増大は, phase 1における葉内のCO_2固定能力の増大に由来していることが明らかになった。3.土壌水分がCAM型光合成に及ぼす影響 パインアップルは, 他の植物では萎凋を生じ枯死にいたる, 初期萎凋点や永久萎凋点の土壌水分下でも, 正のCO_2収支を示し, 極めて耐乾性にとんでいることが認められた。水利用効率を表す蒸散比も, 20∿150と小さく, 水利用効率の高さも明らかになった。しかし, 1日のCO_2収支の最大値は生長有効水分域(pF2∿3)で得られ, パインアップルの生育を旺盛にするためには, 適当な土壌水分の維持が必要であることが明らかになった。4.窒素栄養がCAM型光合成に及ぼす影響 根圏の窒素濃度を277ppmに維持したとき, 1日のCO_2収支は最大となった。1日のCO_2収支は, 葉身の全窒素含量, 可溶性タンパク, クロロフィル含量と正の有意な相関を示していた。また, 1日のCO_2収支に占めるphase 1のCO_2収支割合, つまりCAM性も葉身の全窒素含量と正の有意な相関を示していた。窒素栄養の改善にともなうCO_2収支の増大は, phase 1のCO_2収支の改善を通して行なわれることが明らかになった。5.パインアップルの物質生産の制御とその限界 CO_2収支からみたパインアップルの物質生産の改善の方向は, そのCAM型炭素フローの特性から, phase 4のCO_2収支の増大を通して成されるべきであろうと推論された。CAM性を指標にして, 環境要因がパインアップルのCO_2収支に及ぼす影響の仕方を整理したところ, 仮定のとおりCAM性の低下を通してCO_2収支の改善にかかわる環境要因と, 逆にCAM性の強化を通してCO_2収支の改善にかかわる環境要因の2種類に, 環境要因の影響は類別できるものであった
著者
仲間 勇栄
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.50, pp.85-92, 2003-12

本論文では、沖縄の伝統的食文化の一つである木灰ソバの意義について、その歴史と製造の面から考察した。現在、木灰ソバは中国甘粛省蘭州、タイのチェンマイ、沖縄の三箇所で確認されている。琉球への伝来は、14世紀末の中国からの「久米三十六姓」の渡来以降説と、中国からの冊封使による来琉(1372)以降の説が有力と考えられる。この木灰ソバが一般庶民のポピュラーな食べ物となるのは、明治以降のことではないかとみられる。灰汁に使われる樹種は、戦前ではアカギ、イヌマキ、ガジュマル、モクマオウ、ゲッキツ、現在では、主にガジュマル、イジュ、イタジイ、モクマオウなどである。木灰ソバは天然の樹木の灰から灰汁を採り、それを小麦粉に練り込んでつくる。普通の沖縄ソバでは人工のかん水が使われる。天然の灰汁には、カリウムやナトリウムなどのミネラル成分の他に、微量成分が数多く含まれている。これらの無機成分は、人間の健康維持にとっても不可欠のものである。この天然の灰汁でソバを作るとき、ph値12-13、ボーメ度2-3程度が良好とされる。この天然の灰汁で作る木灰ソバは、味覚の多様性を養う健康食品として、後世に伝えていくべき価値ある麺食文化の一つである。
著者
米盛 重友
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.22, pp.p797-811, 1975-12

西表島の熱帯農研を中心とした園芸植物の調査を行なった結果, 61科119種記載された。草花用として11科24種, 盆栽用として20科38種, 観葉植物用として25科44種, 花木おたび庭園木用として33科46種, 果樹用として4科6種である。その中で特に注目されるものとして, 1.草花用 コウトウシラン, ナリヤラン, イリオモテラン, ノボタン, ヒメノボタン, フジボグサ 2.盆栽用 ヒラミカンコノキ, ミズガンピ, シマヤマヒハツ, ハリツルマサキ, ヤエヤマコクタン, タイワンウオクサギ, ヒレザンショウ 3.観葉植物用 リュウキュウヒモラン, コブラン, ヤブレガサウラボシ, ヘゴ, ミミモチシダ, シマタニワタリ, コミノクロツグ, ヤエヤマヤシ, ハブカズラ, カゴメラン 4.花木および庭園木用 ヒメサザンカ, サキシマツツジ, セイシカ, サガリバナ, サンダンカ, モッコク, モンパノキ, クロガネモチ 5.果樹用 フサラ, シマヤマヒハツ
著者
川満 芳信 川元 知行 吉原 徹 村山 盛一
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.91-105, 1997-12-01

マングローブ構成樹種であるメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギをポット栽培し根系に400mMNaCl処理を施した後, 各器官のイオン組成の変化を調べた。また, 光合成速度, 葉厚, 根の乾物重も併せて調べた。自然環境下のヒルギ3種およびマヤプシキ, ヒルギダマシの葉部のイオン組成も調査した。これらの結果を基礎に, イオン動態からみたヒルギ3種の耐塩性について検討した。結果を要約すると以下になる。1)400mMNaCl処理によって3種ヒルギの光合成速度は低下し, その割合はメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギの順で大きかった(第1表)。2)400mMNaCl処理によって3種ヒルギの各器官で顕著に増加したイオンはNa^+であり, 葉部および根系における増加割合に種間差がみられ, 葉部ではメヒルギが最も大きく, 細根ではメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギの順であった(第3図)。3)400mMNaCl処理に伴う根の乾物重の変化とNa^+, 全窒素の増加割合から, オヒルギの主根は他の2種にはみられない特異的な機構を持つことが示唆された(第2表, 第3,11図)。4)オヒルギの葉は他の2種に比べK^+/Na^+比が低いことから, 細胞の浸透圧調節機構が異なるタイプであると推察された(第12,14図, 第3,4表)。5)ヤエヤマヒルギはNa^+の含量および増加割合は低いが, 主根のCl^-含量が高く, 自然環境下の葉の含量も高いことから, Na^+に対する根の水の選択能は優れているが, Cl^-については葉まで移送させることが示唆された(第3,4図, 第3,4表)。ヤエヤマヒルギは他の2種に比べてMg^<2+>含量が著しく高かった(第7図)。6)葉のCa^<2+>の含量に種間差がみられ, ヤエヤマヒルギ, オヒルギ, メヒルギの順で高い値を示した(第6図)。7)自然環境下のヒルギ3種は葉位におけるNa^+と全窒素に高い相関関係が認められた。
著者
東 清二
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.1-158, 1977-12-01
被引用文献数
3

1.本論文は沖縄におけるサトウキビ栽培品種の変遷に伴って品種の形質と栽培管理方法がいかに変化し, これらがサトウキビ害虫の発生にどう影響したかについて検討したものである。2.沖縄において製糖が始って以来, 今日までに栽培されたことのあるサトウキビは10品種以上に及んでいる。しかし, 品種転換の短期間を除いては読谷山, POJ2725及びNCo310が栽培面積の65%以上を占めていた。この理由で, 本論文では1931年以前を読谷山時代, 1932&acd;1960年をPOJ時代, 1961年&acd;現在(1976年)をNCo時代と呼ぶことにした。3.沖縄で栽培され, あるいは現在栽培されているサトウキビ品種の特性のうち, 害虫抵抗性と関係があると考えられる主な形質について調査した結果, 株出適応性, 脱葉性, 葉幅, 葉姿, 57群毛茸の多少, 葉鞘開度などの形質が関与していることが判明した。4.栽培品種の転換によって当然サトウキビの栽培管理方法も変化した。読谷山時代には穴植法であった。POJ時代にはモジョバングン方式となり, NCo時代は農用機械の利用が多くなった。栽植密度も時代の変遷によって10a当り3,300&roarr;3,600&acd;27,00&roarr;2,400&acd;2,700本となった。植付時期は読谷山時代には春植が主で, 株出栽培が僅かにあった。POJ時代になって夏植が圃場の40%を占めていた。NCo時代には株出面積が75%, 夏植が20%, 春植が5%の比率となっている。施肥量は漸次増加した。剥葉作業はPOJ時代以前にはよく行われていたが, NCo時代には圃場面積の約半分しか行われていない。害虫防除はPOJ時代以前には捕殺または石油乳剤の散布に頼っていた。NCo時代になって合成農薬による化学的防除法がその中心となった。5.沖縄におけるサトウキビ害虫の種類は, 読谷山時代には42種, POJ時代には122種, NCo時代には165種記録されている。このように時代の経過に従って害虫の種類が増加した。しかし, これは調査, 研究の積重ねや取扱い方の違いによる影響が大きく, 害虫化した種類や侵入種は限られている。重要害虫は栽培品種の変遷に応じて変化してきたことが明らかである。読谷山時代にはCavelerius saccharivorus (Okajima)カンシャコバネナガカメムシ, Tetramoera schistaceana (Snellen)カンシャシンクイハマキ, Scirpophaga nivella (Fabricius)ツマキオオメイガ, Sesamia inferens Walkerイネヨトウの4種が重要であった。POJ時代には以上の種からツマキオオメイガが脱落し, Ceratovacuna lanigela Zehntnerカンシャワタアブラムシが加わった。NCo時代にはカンシャワタアブラムシの加害が減少し, Aulacaspis takarai TakagiタカラマルカイガラムシとMogannia minuta Matsumuraイワサキクサゼミが登場した。6.現在沖縄で栽培されている主なサトウキビ品種はNCo310とNCo376で, 前者は栽培面積の80%強, 後者は10%強を占めている。重要害虫はカンシャコバネナガカメムシ, イワサキクサゼミ, タカラマルカイガラムシ, カンシャシンクイハマキ, イネヨトウの5種があげられる。7.カンシャコバネナガカメムシの生活史及び各時代の発生消長について調査した結果を要約すると次のとおりである。(1)従来の各種資料と新たに得られた調査結果によると, 読谷山時代には発生密度が高く, POJ時代には減少し, NCo時代には再び発生が多くなった。(2)品種比較試験圃場及び品種保存園において発生密度を調査した結果, NCo310で個体数が最も多く, 次に読谷山に多く, POJ2725では少なかった。またNCo376ではNCo310に比べ発生密度が少なかった。(3)品種により発生密度が異なるのは, 産卵数, 幼虫死亡率, 幼虫発育日数, 57群毛茸による若令幼虫の保護, 品種によって生息空間に差があるためで, サトウキビ品種が産卵誘引性を有しないこと, 発育阻害因子を有すること, 57群毛茸を有しないこと, 葉鞘開度が小さいことは抵抗性であると考えられ, それらの形質は抵抗性因子としてあげることができよう。(4)サトウキビ栽培管理作業では剥葉, 植付時期(作型), 更新作型, 収穫後の残渣焼却が発生密度に影響する。(5)天敵は9種類確認された。そのうちでEumicrosoma blissae(Maki)カンシャコバネカメムシタマゴバチの寄生率が高い。この寄生蜂の生活史, 発生消長, 寄生率について明らかにした。また, 品種により寄生率に差のあることが認められ, 品種の形質が天敵の活動にも影響することを明らかにした。(6)読谷山とNCo310はPOJ2725に比較して抵抗性因子の保有が少ない。また, NCo時代にはカンシャコバネナガカメムシの個体数を減少させる管理作業が少なく, 発生密度を高くする株出栽培の面積が広くなった。これらのことは各時代における本虫の発生に影響したものと考えられる。8.イワサキクサゼミの生活史とサトウキビ圃場における発生密度増加の原因について調査した結果次のことが判明した。(1)25℃, 30℃における卵期間は, 平均それぞれ42日, 32日であった。
著者
米盛 重保
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.633-640, 1983-11-19

沖縄における春作マスクメロンの品種比較試験を無加温条件下のガラス室で1982年3月&acd;6月に実施した。供試品種は17品種で, 草丈, 葉数, 雌花着生, 果実品質等について調査した。各品種とも順調な生育がみられた無加温下での短期栽培が確認された。特に定植後20日&acd;30日における草丈伸長や出葉数は旺盛で1日当りの草丈伸長は7.8cm, 出葉数は1枚であった。果実の良否に大きな影響をおよぼす雌花の着生状況は比較的良好で9節&acd;15節の雌花着生率は78.7%, 各節位における雌花着生は5&acd;6節から始まり10節以上の節位では90%以上の雌花着生率を示した。果実の着果節位はほとんどの品種が11節目に集中しており理想節位に着果した。果実の品質は品種間差が大きく, アールス東海S-78とシーザーを除き果重が1,300&acd;1,600gで果形は偏平形を呈していた。糖度, ネット形成, 食味ではアールス春系の3品種は栽培管理の困難さがあって順調な結果が出ずネットの不形成や糖度不足が多かった。果肉色, 果皮色は品種特有で, 果肉色は白色, 果皮色は緑色を基色とした濃淡差がみられた。白裕は果肉色果皮色とも乳黄色で従来見られなかった乳黄色ネットメロンとして特異な品種である。病害虫による被害はツルガレ病以外の病虫害はほとんど問題なかった。ツルガレ病は全品種に被害を及ぼし枯死株が続出した。沖縄における春作マスクメロン栽培の可否はツルガレ病対策が重要な課題と思われる。本試験の実施にあたり供試品種の種子を提供下さった前記各種苗会社に深く感謝の意を表します。また本試験は実用規模での栽培であったため多大な労力を必要とした。その面で協力をいただいた農学科学生の糸洲朝光, 喜納兼二, 島袋つかさ, 仲田ひろみ, 林真人の諸君に深く感謝する。また本報告の校閲をしていただいた農場長の大屋一弘教授に深く感謝の意を表します。
著者
石垣 長健 新里 孝和 新本 光孝 呉 立潮 Ishigaki Choken Shinzato Takakazu Aramoto Mitunori Wu Lichao
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.54, pp.23-27, 2007-12
被引用文献数
1

近年、イノシシ肉はグルメブーム、観光ブーム、村おこしブームなどにより商品化が高まりつつある。西表島におけるリュウキュウイノシシと餌資源である森林植物との関係、解体および利用方法を明らかにし、将来的に持続可能な狩猟を行い、食用資源としての需要を図ることを目的とした。調査の結果、西表島のリュウキュウイノシシはドングリ(イタジイ、オキナワウラジロガシ)などの堅果類を好み、その他主に植物性のものを採食し、餌資源植物には30種あることがわかった。イノシシ肉は、採食する餌の種類、季節により肉質に違いがみられ、旨味は脂肪の量に関係し、特有の臭さは血にかかわりがあると考えられた。
著者
翁長 謙良 米須 竜子 新垣 あかね
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.71-82, 1999-12-01
被引用文献数
2

本研究では,沖縄県におけるこれまでの赤土等流出防止に対する研究を踏まえ,土砂流出が及ぼす影響や年間流出量等を考察し,これまでの赤土等流出の歴史的経緯を概観し,対策の提言を行った。その結果,次のように要約できる。赤土流出の影響としては,道路や田畑等の損傷の物理的面,沿岸の景観の悪化という精神的面,川や海の底生生物への影響と云った生物的面等がある。土壌侵食と土壌保全の歴史的経緯の概略についてこれまでは,次の四つの時代,即ち(1)17世紀以前の焼畑農耕時代,(2)18世紀半ばの蔡温時代,(3)1920&acd;1930年の杣山(官有林)開墾時代,(4)1950年代後期&acd;現在までの時代に区分したが,昭和18年代の我謝栄彦の提言を考慮し,時代区分を六つの時代とした。急激な畑地造成の結果,土砂流出が著しいものとなり,現在では赤土等流出防止条例(1994)の施行によって,具体的な対応策が講ぜられている。赤土等流出防止条例の施行後,歴史的に侵食の最大原因とされていた開発事業に関してはかなりの改善策が取られ,流出量は大幅な減少を見ている。また対策としては,土木的対策として,圃場の区画の形態をUSLE(Universal Soil Loss Equation : 汎用土壌流亡予測式)を基に検討し,排水路,承水路の配置については耕区単位ごとに承水路を設けることや畑面の傾斜を緩やかにすること,また沈砂池等の砂防施設のあり方等についてはその大きさ,真水と濁水の分離排水を提言した。営農的防止対策としては,マルチングの効果やミニマムティレッジによる土壌保全の効用等を提言した。
著者
屋我 嗣良
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.555-613, 1978-12-01
被引用文献数
2

シロアリは熱帯を中心に棲息し, 被害も多く, 古くから研究対象として注目されている。大島(1919年)は, Callitris glaucaから抗蟻性成分として油状物を分離した。これが木材の抗蟻性を化学的に取扱った最初のものである。その後, G. N. WolcottやW. Sandermannらは熱帯産材に多数の殺蟻成分が含まれていることを見出した。温帯産の主要樹種の抗蟻値については, 渡辺らにより明らかにされ, そして近藤および佐伯らにより数種の新らしい殺蟻成分が単離同定された。著者は, 亜熱帯に属する沖縄産材の抗蟻性について検討した。まず渡辺らにより提案されたシロアリ簡易試験法を用いて, リュウキュウマツほか17種の沖縄産材に温帯産材のイヌマキおよびスギの2種を加え, 合計20種について抗蟻値を検討した。生物試験は, 一定条件下に供試材をイエシロアリ(生物試験はすべてイエシロアリを用いた)の攻撃にさらし, 供試材の重量減少で表現するのが従来のやり方であるが, 著者は新らしく, 供試昆虫の生体重量減少値で表現する方法を考案し, 従来の方法と平行して行った。供試材の形状は, 小ブロック状のほか, 鉋屑状, さらに木粉状である。これら3種の形状のうち, 木粉状での試験で得られた結果はセンダン, ヘツカニガキジスギ, イヌマキなどで著しい抗蟻性を示し, 沖縄地方での古くからの抗蟻性についての伝承と一致した。このことは構造材の抗蟻性試験法としては木粉状のものを使用するのが適切であることを示すばかりでなく, 長期に亘る構造用材の抗蟻値には化学的要因つまり抽出成分の影響が最も重要なことを示したものである。このような結果にもとずき, センダン及びヘツカニガキの抗蟻性成分について検討した。センダンの抗蟻値は, 樹木の各部で異なり樹皮部>葉部>木部>種実の順であったが, 利用上の観点から, 木部について検討した。センダン材の抗蟻性成分はメタノール抽出物中の中性部に見出され, 活性成分は3群に分けられ, 2個の結晶性成分, 1個はnimbolin A, 他はC_<23>H_<38>O_5の分子式をもつ化合物が抗蟻性成分の主体であることを明らかにした。センダンにつぐ抗蟻性の大きい樹種としてヘツカニガキをとりあげた。その樹木各部での抗蟻値の大きさは, 樹皮部>葉部>木部の順であった。ここではとくに樹皮と木部についてそれぞれ検討した。それらの抗蟻性成分はメタノール抽出物中のアセトン可溶部にほとんど移行し, カラムクロマトグラフィーにより, 抗蟻性成分の主体はクマリン化合物scopoletinとその配糖体scopolinであることを明らかにした。また共存するnoreugeninにも弱い活性があることを認めた。沖縄地域で, 古くから用いられている木材保存技術の1つとして, 海水処理がある。この方法が抗蟻値に及ぼす影響についての解明を試みるため, 海水および27種の塩類を用いて, いくつかの沖縄産材を処理し, その抗蟻性を検討した。その結果, 海水の主要成分であるNaClが特に抗蟻性に大きく寄与していることが明らかになった。さらに各種水溶性無機塩類について検討した結果, HgCl_2,各種バリウム塩, MgCl_2などが抗蟻性の大きい塩類であることを示した。イヌマキは沖縄地方で, 抗蟻性の大きい樹種として重宝がられている。約1225年および2510年経過したイヌマキ古材の木棺を入手し検討した。新材との比較により, ウエザリングの立場から, 抗蟻性の変化を追究した。殺蟻成分であるイヌマキラクトンAはいずれにもなお残存しているが, ウエザリング期間の延長と共に減少しており, 抗蟻値の低下傾向とよく一致していた。すでに述べたように木材のもつ抗蟻性は抽出成分に大きく依存する。そこで, 沖縄産材のうち抗蟻性の大きいいくつかの樹種について, 抽出成分と市販されているいくつかの合成殺虫剤を用いて, プロトゾアとの関係を検討した。沖縄産材からの抽出成分と市販の合成殺虫剤はいずれもプロトゾアを減少させ, とくに大型プロトゾアの減少数と抗蟻値の減少する傾向とがよく一致した。このことはプロトゾアの計測が重要なシロアリ試験法の一つであり得ることを示したものである。
著者
上里 健次 Schinini Aurelio Nunez R. Eduardo Uesato Kenji
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.59, pp.29-34, 2012-12

アルゼンチン北東部のハチドリの生息地に2ヵ年滞在して、ハチドリの行動生態に関する現地調査と写真撮影を行った。とりわけ魅力的で空飛ぶ宝石とも呼ばれるハチドリの飛翔姿態については、著者のみならず、何人にも認められる自然の宝物のひとつである。着任後しばらくはハチドリの飛翔を目にしても、写真撮影のチャンスは治安の悪化情勢もあって、全く考える余地はなかった。その中で専門分野の熱帯花木の開花状況を調査中に、合わせてハチドリの飛翔習性の把握にも努めた。生息する数種のハチドリの一種、コモンハチドリ一種が留鳥として、冬季間も飛来活動を続けることの知見が得られたことも幸運であった。飛翔習性と冬季に開花する植物との関連性の理解、花蜜でない昆虫捕食の活動についても目視できた。これらの現地調査の結果、各植物の花とホバリングの組合わせ、昆虫の空中での捕食、巣と卵の確認などそれぞれに貴重な記録が得られた。留鳥か渡りかの周年の動き、生息するハチドリの種の違いなどにも知見が得られた。ハチドリは鳥類の中では最小最軽量、胸筋が発達して飛翔能力に優れていることから、空中飛翔時に停止後退が可能で、そのことによる飛翔姿態の優雅さが注目される特別の野鳥である。まさしく生きた宝石で、最も魅惑的な野鳥として評価されることは当然である。ハチドリのホバリング撮影は難事なだけに、少なくとも中南米旅行でそのチャンスがあれば留意を望みたい。
著者
新里 孝和 諸見里 秀宰
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.19, pp.503-557, 1972-12

In the present paper history, location (northern part of Okinawa Is., Latitude N. 26°45′and Longitude E. 128°05′), area (about 679ha.), topography and climate ofYona experimental forest of University of the Ryukyusare given in brief description. As the result of a survey on the basis of six quadrats and six belt transects, it was recognized that forest vegetation of the experimental forest is mostly consists of Castanopsis sieboldii association, and the most frequent co-dominant species is Distylium racemosum The number of family, genus and species (among the number 4 subspecies, 21 varieties and 4 forms are included) of the trees and shrubs indigenous to the experimental forest are 58,121 and 191 respectively.
著者
新本 光孝 砂川 季昭
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.22, pp.p771-787, 1975-12

1.本研究は西表島における観光開発の基本的な方法を明らかにするためにおこなったものである。2.今回は, 西表島の概況, レクリェーション利用者の分析, 森林保護の状況などについて述べた。この研究調査をおこなうにあたり, 貴重な文献のご送付やご助言をいただいた日本林業技術協会指導部長島俊夫氏, 熊本営林局計画課長有村洋氏, 沖縄営林署長羽賀正雄氏ならびに調査にご協力をいただいた祖納担当区宮内泰人氏, 上原担当区金城誠俊氏, 琉球大学熱帯農研新城健氏, 神里良和氏, 新本肇氏, 祖納部落の那根団氏に対し深謝の意を表する次第である。
著者
城間 理夫
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.20, pp.169-190, 1973-12

この報告は沖縄におけるパインアップルの蒸発散量について熱収支法による1つの測定実験結果をまとめたものである。測定は琉球大学構内においてライシメーターに栽培してあるスムースカイエン種の株について1972年の夏に約1か月間にわたって行なった。各株は植付後15か月ないし16か月経過していて葉面積指数は4.1&acd;4.3であり結実期に入ったものであったが, これらの株に対するかん水は常にじゅうぶんに行なわれていた。全測定期間のうちで降雨や強風などがなくて測定条件の比較的によかった9日間の測定結果をまとめると次のとおりである。1.夏期, 結実期に入ったパインアップルの蒸発散量はくもりの日に約1.3mm/day, 晴天の日に約2.7mm/dayで, 全平均は2.1mm/dayであった。2.パインアップルの植被上における昼間の各熱収支項の平均の大きさは, 純放射100に対して潜熱伝達量40,顕熱伝達量56,地中伝熱量4のオーダーであった。3.パインアップルの植被上におけるアルベドは日出, 日入のころを除き平均0.15で他の作物に比べて小さい方であった。4.熱収支法によるとパインアップルの夜間における蒸発散量はほとんどゼロになる。
著者
四方 治五郎 江川 義和 宮良 生金 知念 功
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.25, pp.p185-193, 1978-12

オニヒトデ胃部に存在するコラーゲナーゼ, 酸性プロテアーゼはいずれもその至適pHは2.0附近にある。両酵素を硫酸アンモニューム沈澱, セファデックスG-150カラムクロマトグラフィに依り分離を試みたが成功しなかった。又CM-セルロースに依り両酵素活性は吸着されず, DEAE-セルロースに依っては両酵素とも若干吸着され, 吸着の程度においてコラーゲナーゼの方が強く(殊にpH5.0において)吸着された。EDTAを外液とする透析に依る両酵素活性の失活の程度, Ca^<++>イオン, Zn^<++>イオンに依るその賦活において両酵素において著しい差は認められなかった。然しコラーゲナーゼの方がその金属イオン要求度において強かった。以上よりして両酵素が同一タンパクではないにしてもその性質が著しく似ていることが明かとなった。ペプシンに特異的阻害剤によりオニヒトデ胃部酸性プロテアーゼが阻害されない所から, 本プロテアーゼはペプシン様酵素ではなく, この酸性プロテアーゼ標品に含まれるコラーゲナーゼ活性は酸性プロテアーゼがペプシン様酵素であるが故のものでないことを明かにした。