著者
篠原 武夫
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.567-574, 1975-12-01

(1)近年わが国の国産材供給危機の情勢により, 東南アジア森林開発に対する関心の高まりは, まことに著しくなってきている。東南アジア森林開発の問題はわが国の林業問題と密接不可分の関係にある。今日の東南アジアの森林は植民地時代の影響を強く受けているので歴史的認識に基づいた東南アジア森林開発の理論的研究は急務である。本論の中心的課題も, 戦前のイギリス帝国主義によって東南アジアの森林がいかに開発されたか, つまり帝国主義の資本の論理が東南アジア植民地の森林にいかに展開して行ったか, という過程を明らかにすることにある。(2)分析方法は植民地森林開発の理論に基づき, 「イギリス帝国主義経済と東南アジア植民地森林開発」の視点に立って接近して行くことにした。一般に帝国主義が植民地開発(資本輸出)を試みる究極の目的は, 超過利潤取得以外の何物でもないが, その目的を達成するために, 独占資本にとって最も要求される課題は植民地原料資源の独占的支配である。この課題を実現するために領土的支配を確立した植民地においては独占資本は国家権力と一体となって原料資源の独占的開発を進めていく。これに対して領土的支配の確立までに至っていない半植民地においては資本侵略によって原料資源の独占的開発を行なうのである。このことは植民地で森林開発が行なわれる場合にも同じように現われる。すなわち(1)領土的支配の確立した植民地の森林開発はなんらかの国家的規模における強権を背景として独占資本の手で開発され, そのために開発対象林は基本的には国有林であり, 資本活動が国家的林野所有を舞台として展開する。すなわち独占資本は森林の所有主体である国家権力と結合して森林資源の独占的開発を可能にするのである。(2)しかし, 同じ植民地で森林の国家的所有が成立しても森林開発が農業開発に重点が置かれて行なわれることがある。そこでの開発資本には農業開発資本のみが存する。この場合の森林資源の意義は農業開発資本の独占的利潤追求と不可分離の関係にある。(3)領土的支配の確立していない半植民地の森林開発では森林の所有主体が民族国家に属しているため, そこでの一資本による森林資源の独占的開発はもっぱら巨大資本力によって生産過程における民族資本および他の帝国主義国資本を圧倒して実現される。以上に述べた植民地森林開発理論の(1)に該当する植民地はビルマ, (2)はマレー, (3)はタイである。

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