著者
薬師院 仁志
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.42-59, 1998-06-30

本稿は, フィリップ・ベナールによる『自殺論』 (É.デュルケム, 1897年) の解釈を批判的に再検討する試みである。すなわち, ベナールによる解釈にもとづいて『自殺論』を再構成すると同時に, その限界を示すことを通じて, 『自殺論』という書物のもつ問題構成の重大性を再確認することを目標にしている。<BR>ベナールは, デュルケムの抱く女性にたいする偏見が, 『自殺論』においてデュルケム本来の理論をねじ曲げてしまったと主張する。デュルケムは, 女性もまた男性と同じように「自由への欲求」をもっていたのだという事実を隠蔽するために, 「宿命論的自殺」 (過度の拘束から生じる自殺) を追放してしまったというのである。ベナールは, 「宿命論的自殺」を『自殺論』から救出し, それとアノミー自殺とのU字曲線的関係を, 拘束という変数を軸に再構成したのである。<BR>本稿の課題は, ベナールによるこのような『自殺論』解釈を整理すると同時に, それがいかなる根拠にもとついて導出されたのかを明らかにし, あわせて, それがどの程度の妥当性をもつのかを理論的に検討することである。その際, 特に, ベナールが「集団本位的自殺」を自らの理論から除外したことに注目し, デュルケムとベナールの理論的相違点を明確にしたいと思う。

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