- 著者
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島薗 進
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.4, pp.541-555, 2000
- 被引用文献数
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近代化とともに宗教の影響力が衰えていくという世俗化論は, 1960 年代を中心に力をもっていた.確かに地域共同体に根を張って影響力を及ぼしてきた伝統宗教や新宗教のような組織的宗教は力を弱めている.かわって先進国では, 個人主義的に自己変容を追求するニューエイジや精神世界などとよばれるものが台頭してきている.この新たなグローバルな広がりをもつ宗教性を新霊性運動-文化とよぶことにする.情報と関わりが深く, メディアを介して個々人がそれぞれに学び取り, 習得するという性格が濃いこの新霊性運動-文化は, 現代社会で宗教の私事化が進む趨勢の現れであるように見える. ところが, 医療, 介護, 福祉, セラピー, 教育などの社会領域や, 国家儀礼, 生命倫理, 環境倫理などの問題領域に焦点を合わせると, 公共空間で広い意味での宗教がある役割を果たそうとする動向もある.これらの領域では, 近代の科学的合理主義ではカヴァーしきれない側面が露わになり, 宗教性, 霊性といったものを取り入れたり, 広い意味での宗教的な立場からの発言が強まったりする傾向が見られる.公共空間のある種の側面が再聖化する兆候といえる.この動向と世俗化や宗教の私事化と見えたものとは, 必ずしも矛盾しない.世俗化や私事化と見えたものには再聖化に通ずる側面が含まれていたし, 70 年代以降, 世俗化や私事化から再聖化の方向へ, ベクトルが転換する領域があったと考えられるからである.