著者
根津 由喜夫
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.p44-72, 1987-01

十一世紀後半、ビザンツ帝国政府はマルマラ海に面した港町ライデストスに穀物専売制を導入した。この事件は、当時、帝国の置かれた政治・社会・経済の諸状況を理解するうえで、きわめて貴重な知見を我々に提供してくれる。本稿では、この事件に当事者として関係し、互いに対立する立場にあった二人の人物、すなわち政府高官ニケフォリツェスと史家ミカエル=アッタレイアテスに焦点を当て、彼らの意識の内面に迫ることで、この政策を実施した当局側の真のねらいと、それがやがて失敗に帰した要因を分析し、あわせて当時の時代状況を捉えようと試みた。その結果、ニケフォリツェスの一連の施策は、危機に瀕した帝国を立て直すため、経済活動への介入により、集権的国家体制の再建を意図したものであったこと、しかるにその失敗は、自己の所領で半ば自立的な生活を送る属州貴族たちの生活様式が中央政府内部に同調者を見い出すほどに浸透し、彼らに有利な自由な経済体制がもはや押しとどめられぬほどに進展していた結果であることが判明した。

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