著者
武脇 誠
出版者
富山大学
雑誌
富山大学紀要. 富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.273-305, 1991-11

予算の果たすべき職能のうち,非常に重要でありかつ最も困難なものは,予算の動機づけに関する職能である。すなわち,計画,調整の面でいくら優れた予算を作成しても,それによりいかに従業員を,企業目標に向けて動機づけるかについての配慮の行われていない予算は,有用なものとはなりえないであろう。そこでこれまで様々な方策が講じられてきた。そのいくつかを挙げると,予算編成への参加,リーダーシップスタイル,予算のタイトネスレベル等である。そのうち特に予算に内在する問題として,以前にタイトネスレベルに関して検討したが,それと同時に会計的意味が強くかつ重要なのが報酬に関する問題である。この点に関して企業で一般的に行われている方法は,予算を達成するか否かにより,報酬に差をつけることで予算達成を促すものである。しかしこれは解決が非常に困難な問題である。それは,報酬の種類が極めて多様であるばかりでなく,それを従業員に与える方法,基準等についても多数のやり方が考えられ,どれが最適であるかについては,恐らく解決不能な問題だからである。その理由は,報酬を受けるのは様々な性格をもった人間であり,それ故に報酬に対する感じ方が極めて多様なためである。従ってこの考察に際しては,他の動機づけの問題以上に人間の心理学的考察が不可欠となる。そこで当論文では,この極めて困難な分野についての考察の第一歩として,心理学における成果を充分参考にしつつ,これまでこの問題に関して発表されたいくつかの論文を検討し,今後のこの分野の研究の基盤とすることを目的としたい。

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