- 著者
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田中 究
- 出版者
- 神戸大学
- 雑誌
- 神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.3, pp.337-350, 1997-03
幻覚,特に幻聴は,通常,分裂病を中心に精神病症状の病理を典型的に現すとされているが,外傷後ストレス障害,境界性人格障害,身体化障害,あるいは解離性同一性障害をはじめとする解離性障害など,神経症圏の疾患にみられることもまれではない。シュナイダーの一級症状による鑑別では分裂病とこれらの神経症性の疾患が誤診されることがある。しかし,かれらの幻聴を観察すると知覚性が高く意味性に乏しいこと,幻聴の他者を世界内に位置づけ得ることで分裂病性の幻聴から区別することができる。こうした神経症性の幻聴は観察によれば聴覚性のフラッシュパック,想像上の友人によるもの,交代人格によるものの三種類に分類され,これらの鑑別が診断に結びつく。しかし,これには注意深い観察と面接を要する。また,幻聴を有する神経症圏内の患者には健忘,離人症,現実感喪失,同一性の混乱や変容といった解離症状が認められる。これは心的外傷,小児期の虐待の後遺障害と考えられる。幻聴はこの解離に関係しており,幻聴を持つ神経症患者においては解離症状を疑い,その背景にある心的外傷に注目することが治療の端緒になる。またこうした幻聴には薬物がほとんど無効で治療の中心は精神療法である。