著者
小坂 美鶴
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-7, 2001-08-25

最初に, 言語障害への介入理論として(1)神経心理学的理論(2)行動理論(3)情報処理理論(4)言語学的理論(5)認知構造理論(6)語用論的理論の基本的観点と原則を紹介した.次に, 語用論的理論の学問的背景と動向を述べた.語用論は発話の形式を決定するための文脈において生じる発話行為であり, 話し手側の発話に託したメッセージの伝達と聞き手側の意図解釈の問題を取り扱う理論である.それ故, 社会学や心理学, 認知論的な分析にも応用され, 学問としての進化の中で各分野の定義や理論, 方法などが異なっている.さらに本論説では, 軽度失語症患者と右半球損傷群を対象に漫画説明のテクスト構造とテクスト内容について健常成人の産出したテクストと比較し, 言語障害への語用論的理論からの研究結果を示した.分析結果は, テクスト構造の結束性要素である指示語や接続語の使用には有意差はなかったが, 有声休止や言い直しなどの談話の結束性を阻害する要因が軽度失語症群で有意に多く, 右半球損傷群では漫画の内容と合わない項目が多く, テクストの整合性に障害が認められた.この研究結果から言語能力の評価では明確にならない言語障害を明らかにすることができた.すなわち, 軽度失語症患者の渋滞した内容に乏しい発話や右半球損傷患者の内容と合わない発話といった実際の言語使用の印象と一致する結果が得られた.これまでの言語障害児・者への介入では, 言語能力の改善を目的にしたアプローチが主流であったが, 言語能力と言語使用に乖離がある現実からコミュニケーション能力を目的の第一義とした語用論的理論による介入についての研究が増えてきている.これからの言語障害への介入においては実際の場面で状況に合った言語使用を目的とした介入プログラムが重要であり, 会話や談話分析の方法論の統一性についても研究が進み, 今後の語用論的理論による介入の実践の検討と学問的な発展が期待される.

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