- 著者
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海山 宏之
- 出版者
- 茨城県立医療大学
- 雑誌
- 茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.41-49, 2003-03
本稿は『風土記』に記された地名起源譚を手がかりに, 日本人の宗教的あり方の古層を捉えようとしたものである。古代日本においては, 自然を切り開き, 人間の居住する空間を作って人が生き始めた宗教的な起源が, 地名起源譚での王, 首長の象徴的行為として記憶されていた。その象徴的行為は, 境界を宣言し, 木(杖)を立て, 井戸を作って水を湧かし, 地名を名付けるなどの行為であり, フィクショナルにもそれらの行為が為されたとする記述が, 国の成り立ちとして風土記等に記されるべき重要な事柄だったのである。またそうした境界画定, 土地占有の象徴的行為に, ト占やうけひ, そして夢見が深く関わっていたことも, かなり確実だと言える。そして, 風土記や記紀の向こうに垣間見えるこのような宗教的世界は, 現在の日本人の宗教観の深層にも, 基底的なものとして存在すると考えられるのである。