著者
海山 宏之
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.45-51, 2013-03

クリオニクスは、死体を冷凍保存し将来の科学による蘇生・治癒を期待する試みである。この技術は、復活を信じるという意味で宗教に似てはいるが、不死なるものが人間の中にあるという認識を欠き、宗教とは言い難い。また再現性のない技術に寄りかかる態度も科学的とは言えず、本質は賭けに他ならない。現在、生命倫理学において生の延長という倫理問題が話題になってきている。バイオテクノロジーにより人の老化を遅らせ寿命を延ばすという行為にも、死に向き合う気持ちを薄れさせたり、世代交代が阻害されたり、少子化につながったりするという危惧が考えられている。死者のみを扱うという点で狭義には葬送法としか言えないクリオニクスではあるが、死の運命を忌避し死すべき存在としての自分を考えないようにするという点で、生の延長の倫理問題の先鋭的な形と考えられ、広義にはこれも生命倫理的議論が必要なテーマであると言えるのである。
著者
長谷 龍太郎 落合 幸子 野々村 典子 石川 演美 岩井 浩一 大橋 ゆかり 才津 芳昭 N.D.パリー 海山 宏之 山元 由美子 宮尾 正彦 藤井 恭子 澤田 雄二
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.47-56, 2001-03
被引用文献数
2

専門職種を特徴づける知識と技術に対する不安が生じると, 専門職アイデンティティが不安定になる。医療専門職種(Allied Health Profession)である作業療法は, 治療手段が日常的な作業であるために, 作業療法の効果判定や治療的作業の選定理由に曖昧さを伴っていた。米国では, 作業療法が科学的厳密性を伴った医療専門職種として認知される為に, 治療の理論的基礎, 治療効果の検証が重要とされ, 原因や結果の因果関係に比重をおく還元主義を基盤とした実践が行われた。結果として慢性疾患や障害に対する技術面が強調される機械論的モデルが隆盛し, 日本はこのモデルを導入した。還元主義的作業療法では人間の作業を扱う包括的な視点が欠如し, 専門職アイデンティティの危機が生じた。米国の作業療法理論家達は機械論的還元主義からの脱却の為に, システム論を用いた作業療法理論の構築と包括モデルの提示を行なった。日本では作業療法士に対する専門職アイデンティティの調査は行われておらず, アイデンティティ研究は日本独自の作業療法理論やモデルの構築に重要であると言える。

2 0 0 0 QOLとSOL

著者
海山 宏之
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.149-153, 2009-03

QOL(Quality OF Life)の「生命の質」という言葉はSOL(Sancity OF Life)「生命の尊厳」の対義として生まれた話である。QOLの語は倫理学説的には状況倫理説に布置して功利主義に通じ、SOLは原則倫理の側にある。QOLの考え方は医療の現場での実践的な行動に親和的であるが、価値中立的な語ではない。QOLについては、理性や能力の軽重によって生命の価値に序列がつけられるのではないかという問題点も指摘されている。またSOLの原則的な考え方は本来柔軟性を欠くものである。現実には両者の折衷的態度がとられているにせよ、QOLとSOLとは背反的存在として議論されるよりも、積極的に両立的に考えられるべきと考える。それはQOLとSOLの双方の立場が補完的に医療を支えていく倫理・哲学となり得るからである。
著者
海山 宏之
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.41-49, 2003-03

本稿は『風土記』に記された地名起源譚を手がかりに, 日本人の宗教的あり方の古層を捉えようとしたものである。古代日本においては, 自然を切り開き, 人間の居住する空間を作って人が生き始めた宗教的な起源が, 地名起源譚での王, 首長の象徴的行為として記憶されていた。その象徴的行為は, 境界を宣言し, 木(杖)を立て, 井戸を作って水を湧かし, 地名を名付けるなどの行為であり, フィクショナルにもそれらの行為が為されたとする記述が, 国の成り立ちとして風土記等に記されるべき重要な事柄だったのである。またそうした境界画定, 土地占有の象徴的行為に, ト占やうけひ, そして夢見が深く関わっていたことも, かなり確実だと言える。そして, 風土記や記紀の向こうに垣間見えるこのような宗教的世界は, 現在の日本人の宗教観の深層にも, 基底的なものとして存在すると考えられるのである。
著者
岩井 浩一 澤田 雄二 野々村 典子 石川 演美 山元 由美子 長谷 龍太郎 大橋 ゆかり 才津 芳昭 N.D.パリー 海山 宏之 宮尾 正彦 藤井 恭子 紙屋 克子 落合 幸子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.57-67, 2001-03

看護職の職業的アイデンティティを確立することは, 看護実践の基盤として極めて重要であると考えられるが, 看護職の職業的アイデンティティの概念や構造は必ずしも明確になっていない。そこで, 現在様々な立場にある看護職を対象に調査を行い, 看護職の職業的アイデンティティの構造を探るとともに, 職業的アイデンティティ尺度を作成した。因子分析の結果をもとに, 1)看護職の職業選択と誇り, 2)看護技術への自負, 3)患者に貢献する職業としての連帯感, 4)学問に貢献する職業としての認知, 5)患者に必要とされる存在の認知, という5つの下位尺度が抽出された。これらの下位尺度に高い因子負荷量を示した項目について信頼性係数を算出したところ, α係数は0.78〜0.89といずれも高い値を示しており, また尺度全体としては0.94と信頼性が高いことが確認された。さらに, 因子得点を算出し, 看護職としての臨床経験年数や看護教員としての教育経験年数などの変数との関連を探ったところ, 看護職の職業選択と誇り, 看護技術への自負, 患者に貢献する職業としての連帯感, および学問に貢献する職業としての認知という4つの因子は, 年齢, 臨床経験年数, および教育経験年数と有意な相関が認められたが, 患者に必要とされる存在の認知因子は年齢および臨床経験年数とのみ関連が見られた。各因子とも, 看護学生群でスコアが低く, どのようにして職業的アイデンティティが高まっていくかを探ることが今後の課題といえる。