著者
植田 今日子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.33-50, 2004-06-30

近年の公共事業見直しのうごきと自然環境への意識の高まりから, 川辺川ダム (熊本県) はその必要性を厳しく問われる公共事業である.頭地地区を含めた五木村, 相良村 (一部) はこれまで36年間, 大挙離村や地域社会内部での対立を経験しながら水没予定地域としてありつづけてきた.五木村は現在ダムの「早期着工」を訴える立場にある.なぜ周囲で声高に事業の必要性が問われる中, 自らをさんざん苦しめてきたダムの早期着手を訴えなければならないのだろうか.本稿では, 水没予定地である五木村頭地地区でのフィールドワークをもとに, ダム計画に対して3つの異なる立場をとってきた五木村の水没3団体が, いかにして自らの団体を他団体と差異化しつつ, 「早期着工」という総意を成立させているのかを明らかにすることで, 「早期着工」表明の論理に近づくことを目的とした.<BR>これまで, 公共事業によって損害を被るはずの人びとが事業の早期着手を訴えるということは, 自己利益の最大化として功利主義的に捉えられることが多かった.しかし「早期着工」の意思表明には, 公共事業が生活の場における諸関係にもたらしてしまう意味を克服しようとする遂行的意味があった.それは, 世帯ごとの意思決定を配慮・尊重するがゆえに, むらがむらとして成立しないという状況において実践された, むらの生成という言遂行的な意志表明であった.

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