- 著者
-
石川 和代
- 出版者
- 名古屋女子大学
- 雑誌
- 名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, pp.251-256, 1980-03-31
「偉大なギャッツビィ」は中西部出身の青年ニックによって語られている.ニックは大学を卒業してから,債券の勉強をするために東部へやってきている.ニック,ギャッツビィ,トム,デイジー,ジョーダンの五人はみな中西部の出身で,語り手ニックものべているように,一応はみな西部人である.現在はみな東部に住んでいるが,トム,デイジー,ジョーダンはロングアイランドの東エッグに,ニックとギャッツビィは西エッグに住んでいる.東エッグに住んでいる三人は,本当に東部に住むことが好きである.東エッグは西エッグよりもっと流行を追い求める場所である.そこに住んでいるトム,デイジー,ジョーダンの三人は,物質的豊かさのみを求める人間,自分勝手で不注意な人間,不正直な人間として描かれている.西エッグに住んでいるギャッツビィは純粋な一面をもっている.彼は貧乏な百姓の子として生まれるが,少年のころから出世を志す.若い将校であるころ,金持の娘デイジーと恋をし,彼女を手に入れるために,あらゆる努力をして富を得る.ところがそのころ,デイジーはすでにトムの妻となっている.「過去はくり返すことができる」と純粋に考える彼は,自分の理想であるデイジーとの生活を夢みる.デイジーが彼の車でトムの情婦をひき殺してしまった時,彼はあくまでもデイジーを守ろうとする.ところが,トムとデイジーの自分勝手なやり方のために,ギャッツビィは殺されることになる.ニックはこのギャッツビィの純粋な一面にふれて,中西部に愛着を感じると同時に,東部がいやになり,東部をすてて再び中西部にもどる決心をするのである.こうして考えてみると,五人のうち本当の西部人はニックとギャッツビィのみであり,トム,デイジー,ジョーダンは西部人であるにはあまりにも純真さがない.作者は東エッグと西エッグの対照によってこのことを暗示しているように思われる.