著者
小西 恵美
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.27-52, 1996-10-25

18世紀のイングランドには様々な時代に起源を持つ,大小様々な権限の行政組織が混在し,地方政府と呼べる機関は存在しなかったが,その中で最も発達した形態をとり地方政府に近い働きをしていた機関は都市コーポレーションであった。そこでは市長とオルダーメン,カウンシラーから構成される市議会が全ての決定権を持っていたが,コーポレーションの資産が饗宴や俸給などメンバーの私的利益の追求に使用されたとして,しばしば批判の的となってきた。ここでは港湾都市の1つであるキングス・リンを取り上げ,収入役会計簿と市議会議事録を中心とする一次史料を分析することにより,コーポレーションが具体的にどのような活動を行っていたかを検討する。キングス・リン・コーポレーションは通常,不動産や賦課金,市場や上水道,波止場等の使用料から収入を得ており,必要に応じて年金証券や債券の発行,借入によって収入を補填していた。その資金は河川・港湾施設を中心とするインフラ整備や慈善活動の他に,俸給や利子の支払い,祭典・饗宴,訴訟を含む行政費に使われていた。また,市民(freemen)や施療院,そしてとくに港湾労働者の管理もその活動の重要な部分を占めていた。従来の研究では「地方政府」にいかに近い性格を持ち合わせるか,すなわちいかに公共利益に沿った活動を行っているかがコーポレーションを判断する際の規準となっていた。これに基づいてキングス・リン・コーポレーションを判断すると,他の都市と同様に,それは清掃や街灯,警備のような都市サービスについて市民の要求にははとんど応えておらず,慈善活動も決して十分なものではなかったが,その公共施設への投資は評価でき,比較的機能していたという結論を導き出すことができる。しかし,1835年を境に地方行政機関のあり方が大きく変化したことは明らかである。そうであるならば「地方政府」の規準からではなく,私的利益追求団体としての別の見地からコーポレーションの活動を追究することが今後の課題として提起される。

言及状況

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 18世紀におけるキングス・リン・コーポレーションの活動(小西 恵美),1996 https://t.co/fHYvVrIrTM

収集済み URL リスト