著者
村上 恭子
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.51-63, 1995

情報とテクノロジーが主要な役割を占めている後期資本主義社会において,特に大きな影響力があるテレビというマスメデイアの様々な側面を,Thomas PynchonのVineland (1991)を中心に検討を行った。テレビによる疑似世界の蔓延は,シミュラークルの先行するハイパーリアルな世界を偏在させ,実像と虚像の区別を不可能にしてしまっている。またテレビが送る断片的映像は,互いに不調和な要素が渾然となった多元的世界を生み出し,見る人々の心を一種の分裂状態にさせた。さらにテレビ映像は,現実を透明に直接に再現しているようでありながら,出来事,カメラ・アングル,形式的構成などを通してイデオロギーを洗脳する媒体としても必ず機能する。こうしてテレビは,国家や大企業などの特定の権力機構や文化と結び付いた覇権的イデオロギーを人々に押しつけ,画一的な価値観や全体主義的傾向を生み出すのである。だがその一方では,テレビは真実を伝え,政治や経済的不正を暴いて,その社会的使命を果たしてもいる。 Pynchonのこうしたテレビの描き方を通し,読者は合理主義的西欧文化の功罪を知ることができるのである。

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