- 著者
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村上 恭子
- 出版者
- 富山大学
- 雑誌
- 高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, pp.135-149, 1992
Thomas PynchonのThe Crying of Lot 49に描かれた謎の組織Tristeroは,60年代アメリカに現れたカウンター・カルチャー運動にみられる精神を具現しているかのようだ。すなわち,産業資本主義とテクノロジーを中心とする社会にみられる様々な状況-人間疎外,体制の生み出す一義的な価値体系,そうした体系に適合しないゆえに社会から排除されたもの達,等々-にTris teroは異議を唱え,自由で多様な生き方を示している。しかし,Tristeroに見られる反文明,反産業,反論理,といった反体制の理念は,ヒッピー,ビート族,フラワー・チルドレン等の50年代,60年代における特殊な文化運動に収斂しきれない大きな歴史的パースペクティブを特っている。それは神話の世界から存在する昼と夜の世界,換言すれば,<体制,文化,秩序>対<反体制,自然,反秩序>,あるいは文化における<正の要素>対<負の要素>の対立と共存の歴史である。本論では,Tristeroを通して,文化の双面性,両義性の問題を検討する。