著者
奥 美佐子
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.51-65, 2003-12-20

美術における摸倣は肯定的にも否定的にも扱われてきた歴史をもつ。摸倣の意味は変化し、現代美術においては表現ツールとしてのスタンスを得た。本稿では摸倣をポジティブに、且つ摸倣の意味を広く捉えて、幼児の描画表現の過程で出現した模倣の要件を幼児の模写能力から検討したいと考えた。前項「現代美術と幼児の造形における摸倣のスタンス」で分類した摸倣の3タイプにおける視覚的要件、空間的要件、人的要件について検討した結果、視覚的要件と空間的要件が密接な関係にあることがわかった。人的要件は前2者程には影響をもつとは考えにくく、人的要件が何らかの影響をもつ場合は、日常の人間関係を反映していると考えられた。描画過程における摸倣の出現はビジュアルな要素が優先していると考えられる。描画における幼児間での摸倣を扱った研究を進めているが、幼児間で摸倣がどれほどの精度で可能かを確認するため、幼児間で模範と模写の関係を決めて描画の摸倣の実験をした。パーツと構図から模倣度を求めた結果、数値にはばらつきがあるが、5歳児の模写能力はかなりの精度で模範を模写できることがわかった。視覚による情報摂取と、摂取した情報の表現への反映が可能であることで、描画過程における摸倣は、'絵がかけないから摸倣する'という見方を払拭することができたのではないだろうか。

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