著者
山田 吉郎
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.35-46, 1992-12-10

川端康成は大正十三年の大学卒業後、伊豆湯ヶ島に引きこもり、孤独な文学修業時代を送るが、とくに大正十四年は一年の大半を湯ヶ島に滞在し、彼の人生観、文学観の形成の上に大きな影響を与えたと推測される。本稿においてはその若き川端の魂の軌跡を、とくに彼の書いた随筆作品に焦点をおいて考察した。大正十四年の随筆群を概観すると、人間と自然との境界を暈して自然自己一如的な境地に立脚した死生観や、そこから導き出されてきた自然観、さらに旅の意識の三点が主要な要素として指摘できる。そして、これらがこののちの川端文学の基底を形づくってゆくわけであり、その随筆作品の文学的意義はたいへんに重いものをはらんでいると言える。また、この時期の随筆作品の所々に、『伊豆の踊子』や『春景色』など川端文学の主要作品の表現に直接つながるような部分が見られ、川端小説の表現の形成過程を探る上でも、当時の随筆には看過しがたいものが存すると考えられるのである。如上の考察をふまえた上で、大正十四年の随筆活動の位置づけを展望し、まとめとした。

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