著者
石田 浩
出版者
關西大学經済學會
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.353-374, 2002-12

本稿は、福建省晋江市における「三資企業」の調査研究である。拙著『中国同族村落の社会経済構造研究一福建伝統農村と同族ネットワークー」(関西大学出版部、1996年)で明らかにしたように、本地域には三つの余剰、つまり華僑華人からの送金という余剰資金、土地改革で南洋に逃げた華僑華人の空き家、農村余剰労働力があり、この三者を結合させて、衣料や靴などの労働集約型工場を設立し、経済発展を遂げた地域である。これがいわゆる「晋江モデル」である。ところが、1990年代に入ると、地元資本は資本力や技術力のある台湾資本や香港資本との競争に破れ、経営が悪化し始めた。これを打開するために地元資本は外資と結びつき、いわゆる「外向型発展」を遂げるようになった。本地域への外資は圧倒的に香港資本が多い。ところが、本地域出身の華僑華人の多くはフィリピンであり、小学校や中学校等への寄付、道路・橋の修理、同族廟や村廟の再建などはフィリピン華僑華人に負っており、フィリピンとの結びつきが歴史的にも強い。にもかかわらず、中外合資企業の多くが香港資本である。調査で明らかになったことは、香港資本と考えられていたのは、実は地元資本であり、地元資本は外資向け優遇策を手に入れるために、兄弟や親戚を香港に送り出し、香港資本として地元に迎え入れるという形式を取り入れた。これが合作・合資・独資の「三資企業」と呼ばれるものであるが、その中身は香港資本ではなく地元資本であり、つまり「偽香港資本」であった。対中投資額と件数のトップは香港であるが、香港資本の中には「偽香港資本」、つまり「中中投資」が数多く含まれており、本稿はこの点についての分析を試みた。

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