著者
春日 淳一
出版者
關西大学經済學會
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.445-455, 2005-12

自分がどう出るかは相手の出方次第であり、相手から見ても同様であるとき、ダブル・コンティンジェントな状況にあるといわれる。コンティンジェンシー(不確定性)は事態をむずかしくする厄介者のようであり、除去すべきものと考えられがちである。パーソンズもその方向でダブル・コンティンジェンシーの問題をとらえた結果、満足な解決に至らず終わった。一方ルーマンは、ダブル・コンティンジェンシーがあるからこそ相互行為や社会システムが生まれるのだと見る。この魅力的な発想転換を、彼のいう「コンティンジェンシー概念の拡張」を手がかりにして読み解き、筆者なりにくだいて説明するのが本稿の主旨である。コンティンジェントなものは、必然的でもなければ、不可能でもないものである。その「不可能でない」に賭ける人間がいるかぎり、社会システムは生成するのである。
著者
元木 久
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.229-262, 2009-12-05

本稿ではRockefeller Archive Centerに現存するM.Kaleckiに関する未公表のすべての記録を末尾に付録として収録する。この記録に基づいて既存のカレツキ研究の中にある誤った事実認識を修正すること、さらに、カレツキ全集1)およびその他の資料をも利用して、カレツキがロックフエラー財団のfellowshipによりポーランド出て、オックスフォード大学統計研究所で一時的な職を得るまでの経緯を示すことによって彼の研究継続がロックフェラー財団やケンブリッジ大学の研究者から得た多大の援助に基づくこと、その間の研究成果がカレツキひとりの独創的アイディアよって形成されたのではなく、特にワルシャワの景気循環・物価問題研究所の同僚であるランダウとの共同研究、プレイトの研究成果、L.S. E.でのラーナーの研究成果などを自らの体系形成の中に取り込むことによって形成されたことを明らかにする。
著者
植村 邦彦
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.481-510, 1997-12-25

マルクスの数多い著作の中でも、1852年に書かれた『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』ほど、これまでに様々な読まれ方をしてきたテクストはないだろう。たとえばエドワード・サイードは、文学批評の方法を論じたエッセイの中で小説と「情況的現実」との関係を論じながら、やや唐突に次のように述べている。「しかしながら、いかなる小説家も、『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』を書いたときのマルクスほどに現実的情況について明確な態度を取ることはできないだろう。私から見れば、現実的情況が甥[ルイ・ボナパルト]を革新者としてではなくて、偉大な叔父[ナポレオン]の笑劇的な反復者として仕立て上げたことを示すときの筆法の正確さがこれほどに才気あふれ、これほどに圧倒的な力をもって迫ってくる著作はない(1)」。サイードが強調する第一点は、「マルクスの方法にとって言語や表象は決定的な重要性を持って」おり、「マルクスがあらゆる言語上の工夫を活用していることが『ブリュメール18日』を知的文献のパラダイムたらしめ(2)」ているということであり、第二は、ナポレオン伝説によって育まれた「実にひどい過ち」を修正するために、「書き換えられた歴史は再び書き換えることが可能であることを示」そうとするマルクスの「批評的意識(3)」である。こうして、マルクスにおけるレトリックという問題が設定される。あるいは、「オウムと世界最終戦争」という副題をもつ著書『虚構の時代の果て』の「あとがき」で、大澤真幸はこう述べている。「民主主義体制の下で極端な独裁が国民の広範な支持を獲得できたのはなぜか。マルクスは、この人物、ルイ・ボナパルト(ナポレオン三世)のク・デタが人民投票で承認された直後に、彼が政権を獲得するまでの過程を社会学的に考察する『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』を著している。今日でもなお、マルクスのこの議論は、ボナパルトが成功しえた理由についての、最も説得力ある分析であろう。ちょうどこのマルクスの分析のような、私たちが内属している『オウム』という文脈に対する透徹した考察が必要である(4)」。ここでは、マルクスのこの書は、「考察する者自身が内属している<現在>」に関する「社会学的考察」の模範例とみなされている。このような『ブリュメール18日』の読み方は、言うまでもなく、「マルクス主義」の側からの正統的な読み方とはかなり異なる。マルクスの死後まもない1885年に、エンゲルスはこの書の第三版に付した序文で、次のような位置づけを試みているからである。「マルクスこそ、歴史の運動の大法則をはじめて発見した人であった。この法則によれば、すべて歴史上の闘争は、政治、宗教、哲学、その他どんなイデオロギー的分野でおこなわれようと、実際には、社会諸階級の闘争の――あるいはかなりに明白な、あるいはそれほど明白でない――表現にすぎない。そして、これらの階級の存在、したがってまた彼らのあいだの衝突は、それ自体、彼らの経済状態の発展程度によって、彼らの生産、およびこの生産に条件づけられる交換の仕方によって、条件づけられているのである。……マルクスは、ここでこの[フランス第二共和制の]歴史によって自分の法則を試験したのであって、彼はこの試験に輝かしい成績で合格した、と言わざるをえないのである(5)」。この見方によれば、『ブリュメール18日』は「唯物論的歴史観の定式」の一つの例示だということになる。本稿の課題は、『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』に関する最近の注目すべきいくつかの「読み方」の批判的検討を通して、マルクスの思想の展開の中に占める『ブリュメール18日』の位置づけを明らかにすることにある。マルクスにおける歴史認識の方法、それがテーマとなる。
著者
北原 聡
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.399-420, 2005-12-05

近代日本の道路は物資や旅客の輸送など民生目的のほか軍事的にも利用された。陸軍は道路の使用および道路状況の改善に強い関心を寄せており、道路整備の主体であった府県や市町村に対して道路を整備するよう働きかけ、いっぽう、多数の兵士や重量のある兵器が通過する陸軍の道路使用は各地で道路の被損を引き起こし、府県や市町村は道路修繕を余儀なくされた。道路行政を管掌する内務省は、1919年に制定された道路法に陸軍の道路使用に伴う地方の負担を軽減する条項を盛り込み、それは一定の効果をあげたものの、こうした状況の根本的な改善にはつながらなかった。
著者
中澤 信彦
出版者
關西大学經済學會
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.77-86, 2006-06

19世紀ブリテン思想史研究のマスターピースである『かの高貴なる政治の科学』の内容を約説し、本書のバーク研究およびマルサス研究における今日的意義を概括する。
著者
中澤 信彦
出版者
關西大学經済學會
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.253-279, 2006-12

ラヴジョイは、『存在の大いなる連鎖』において、ヨーロッパ思想史上、プラトン以来の主要な観念図式として「存在の連鎖」を抽出し、ヨーロッパの自然・社会認識のあり様を特色づけた。神によって個別に創造されたすべての種(生物・無生物)は、最も高等なもの(天使)から最も下等で原始的なもの(鉱物)にいたるまで、「欠けている環」のない単線的な階層秩序を形成している、という世界観をこの観念図式は含意しており、18世紀に空前絶後の普及を達成していた。詩人ポープは哲学詩『人間論』でこうした世界観を典型的に表現した。本稿は、バークとマルサスのデビュー作がともに『人間論』からの引用を含んでいる事実を出発点として、両者における政治的保守主義と経済的自由主義の結合の知的起源を「存在の連鎖」の観念図式およびその変容(時間化)に求め、英国近代保守主義が啓蒙思想に対する反動的側面ぼかりでなく啓蒙思想の「末子」あるいは「一ヴァリアント」としての進歩的側面(漸進的改革論)も有することを明らかにする。
著者
中澤 信彦
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3-4, pp.249-271, 2015-03-10

本稿の課題は、ハイエクがバークをどのように読んだのか、その読解の詳細を追跡することによって、ハイエクの保守主義観の特質と意義を明確化することにある。ハイエクが残したバークへの言及は分量的に決して少なくないが、断片的なものばかりである。そこで本稿では、ハイエクがバークの膨大なテクスト群のうちの何を参照したのかにとりわけ着目しつつ、ハイエクの主要著作におけるバークへの言及の有様を時系列的に整理する。本稿の構成は以下の通りである。第1節では論文「真の個人主義と偽りの個人主義」におけるバークへの言及を検討する。第2節では壮年期の主著『自由の条件』を検討し、第3節では『自由の条件』の補論「なぜ私は保守主義者ではないのか」を検討する。第4節では『自由の条件』と並ぶ後年の主著『法と立法と自由』を検討する。最後にこれまでの議論を整理し、「つまるところ、ハイエクはバークをどのように読んだのか?」という問いに、できるだけ明快な答えを与えたい。
著者
橋本 昭一
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.463-486, 1989-09-30
著者
橋本 恭之 木村 真
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.165-195, 2014-09-10

本稿の目的は、夕張市財政の現状を把握し、財政再建計画および財政再生計画の進行状況をあきらかにすることである。本稿で得られた結果は、以下のようにまとめることができる。第1に、夕張市は、多額の債務を抱えているものの、毎年の返済は確実におこなわれており、夕張市の財政再建自体はほぼ順調に推移している。第2に、夕張市では、当初の想定以上の人口流出が続いている。第3に、歳出削減の半分程度が人件費カットによるものだ。第4に、夕張市の基幹税である個人住民税、固定資産税の税収は、財政破綻後に新たに超過課税を導入したにもかかわらず減少が続いている。
著者
橋本 恭之 木村 真
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3-4, pp.303-321, 2015-03-10

本稿の目的は、夕張市における公営事業と国保事業の現状と課題をあきらかにすることである。本稿で得られた結果は、以下のようにまとめることができる。第1に、財政破綻後の観光施設の運営方法として採用された指定管理者制度は、さまざまな課題を抱えていることがあきらかになった。指定管理者制度のもとで観光施設の延命を図るよりも、民間への売却ないし無償譲渡を優先して考えていくべきだろう。第2に、夕張市の病院会計の赤字は、診療所に縮小することで解消が図られてた。しかし、老朽化に伴い移設計画が検討されているものの、市の人口中心地への移設はへき地医療の指定がはずれてしまうなどの課題を抱えている。第3に、夕張市の国保事業会計は、赤字が解消されている。ただし、2010年度以降、赤字解消により保険料が引き下げられ、受診率と 1人あたり医療費も上昇傾向にあることから今後注意が必要である。第4に、夕張市の下水道事業は、一般会計からの繰り出し不足、利用者の伸び悩みなどにより多額の累積赤字を抱えるに至った。地方都市においては、インフラ整備の優先順位を考える必要があることがわかった。
著者
柏原 宏紀
出版者
關西大学經済學會
雑誌
関西大学経済論集 = Economic review of Kansai University (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.695-710, 2018-03

本論文は、日本の近代化が速やかに達成された理由を探るべく、明治初年の洋行官僚について検討したものである。具体的には、明治零年代後半に時期を限定し、政府内各組織における洋行官僚を抽出して表として掲げ、それらを集計して、人数や割合の変化について考察した。結果として、当該期に洋行官僚は政府で高い価値を帯び、政府内に占める彼らの割合が、全体としても各組織単位でも増加していたことが判明し、西洋を念頭に置いた近代化政策を進める人材が確保されていたことが明らかになった。
著者
角山 幸洋
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.665-707, 1988-03-15
著者
加勢田 博
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.17-31, 2002-06-01

19世紀のアメリカにおける交通・輸送の発展は、世紀前半においては、河川や運河の航行改良によって、また世紀後半には鉄道によって、工業成長に伴う著しい輸送需要の増大に対応することができた。本論文では、河川輸送が鉄道時代の到来とともにその役割をどのように変化させていったのかを概観する。
著者
関 弥三郎
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4-5, pp.461-479, 1977-01-25
著者
荒井 政治
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.115-138, 1989-04-30
著者
松尾 精彦
出版者
關西大学經済學會
雑誌
関西大学経済論集 = Economic review of Kansai University (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.87-105, 2017-09

この論文では、結果的にどのチームが効率的に得点をし失点を防いでいたかをグラフィカルに表す方法を提案する。具体的には、同一対戦チーム間の得点を、ランダムに並べ替えて勝敗を再計算する。この作業をすべての対戦について行い、セリーグ・パリーグでの順位を決定する作業を各シーズン10,000回行い、順位の分布を求める。この順位の分布と実際の成績とを比較すれば、どのチームが効率的に得点し失点を防いだかを観察できる。得点をランダムに並べ替える根拠としては、同一対戦チームの得点の相関係数が、150件中3件しか5%有意ではないことが挙げられる。ここでは、各年の得点の相関係数とそのp-値を計算し、得点の並べ替えに意味があることを示し、その並べ替えた結果の順位分布と実際の順位を比較する。