著者
森山 工
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.81-104, 1996-06-30

マダガスカルの文化については,その微視的な内容多様性にもかかわらず,言語や慣習の根本的な同一性を論拠として巨視的な統一性を強調する言説が一般に流布している。フランス植民地行政府は,19世紀に広く島内に覇権を拡大した中央高地のメリナ王朝の他民族支配の事実を踏まえ,メリナと非メリナ系民族との対立を煽る政策を展開したが,これを受けて,マダガスカル人の単一性にかかわる意識は,文化的統一性や島としての国土の単一性にその根拠を求める言説とともに,ナショナリズムの展開の過程で覚醒された。だが,このような言説はそれ自体が一般論として提起されるものにすぎず,一般論の次元を超えて何らかの具体的な文化的シンボルとの結びつきにおいて定式化されることはない。本稿では,1991年にマダガスカル全土で起こった大規模な反政府運動に例をとってこの事態をあとづけるとともに,そこに看取される自意識のあり方について考察を試みる。

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