著者
高橋 均 荒 このみ 山本 博之 増田 一夫 遠藤 泰生 足立 信彦 村田 雄二郎 外村 大 森山 工
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

戦後、欧米先進諸国に向けて、開発途上国出身の多くの移民が流入し、かれらを文化的に同化することは困難であったため、同化ではなく統合を通じてホスト社会に適応させようとする≪多文化主義≫の実験が各地で行われた。本研究課題はこのような≪多文化主義≫が国際標準となるような≪包摂レジーム≫に近い将来制度化されるかを問うものである。結論として、(1)≪多文化主義≫の背景である移民のエンパワーメントは交通・通信技術の発達とともになお進行中であり、いまだバックラッシュを引き起こす危険を含む。(2)第一世代はトランスナショナル化し、送出国社会と切れず、ホスト社会への適応のニーズを感じない者が増えている。(3)その反面、第二世代はホスト社会の公立学校での社会化により急速に同化し、親子の役割逆転により移民家族は不安定化する。このために、近い将来国際標準的な≪包摂レジーム≫の制度化が起こる可能性は低い。
著者
深澤 秀夫 内堀 基光 杉本 星子 森山 工 菊澤 律子 飯田 卓
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

2002年から2006年に渡り、研究分担者それぞれが、マダガスカルを中心に、<マダガスカル人>と深い歴史的あるいは政治-経済的な繋がりを持つフランス、レユニオン、モーリシャス、マレーシアの各地域において実地調査を行い、資料を独自に収集した。2002年にマダガスカルにおいては、地方独立制を導入した大統領を選挙で破り、新大統領が就任した。しかしながら、新大統領も地方独立制政策を継承したのみならず、顕著な新自由主義的な経済政策を採用したため、マダガスカルに生活する人びとの間における貧富の格差はこの調査期間中にさらに増大し、生活のための資源の獲得をめぐる競争はますます激化する様相を呈している。このような生活をめぐる状況の中で、私たちが調査を行ってきたマダガスカルの人びとが資源の獲得と配分について共通に生み出しつつある生活戦略の特徴は、<アドホック>と<小規模性>の二語に集約されるであろう。経済学のようなマクロな視点から捉えるならば、このような単語には効率化や計画性の対極に位置されるべき否定的な属性だけが付与されるかもしれない。けれども、<生活者>としての個体に視点を据えるならば、経済学的な<資本>を持たない人びとにとって、自分の身近にあるありとあらゆる<物>を生存資源とし、さらには売買される<商品>と化すことの可能性を常に保持しておくことこそが、あたかも自己の手の届かないところから突然降ってくるような米をはじめとする物価の急上昇および法律と言う名で課せられるさまざまな拘束あるいは剥奪に対し、自己の生存を保障してくれる唯一と言ってよい生活戦略に他ならない。現在の政治・経済状況の中では、国家公務員でさえこのような生活戦略と無縁ではない。一つの生産活動や生活形態に依存しないこと、何時でも他の生産活動や生活形態に従事したり移行したりすること、余剰生産を目指すわけではないが余剰のある時はその物をすばやく<商品>として提供すること、このような生活様式は、農村であれ都市であれ現代マダガスカルの大半の人びとの中に、深くしみこんだものである。それゆえ現代マダガスカルの人びとの間では、めまぐるしく<資源>となる物が新しく登場しあるいは移り変わっている。本研究は、このような現象に対し一つの道筋をつけたと言えるが、人間の想像力が生み出す多彩な生活戦略の一端に触れたにすぎず、さらなる資料の蓄積と分析の深化が必要である。
著者
森山 工
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.81-104, 1996-06-30

マダガスカルの文化については,その微視的な内容多様性にもかかわらず,言語や慣習の根本的な同一性を論拠として巨視的な統一性を強調する言説が一般に流布している。フランス植民地行政府は,19世紀に広く島内に覇権を拡大した中央高地のメリナ王朝の他民族支配の事実を踏まえ,メリナと非メリナ系民族との対立を煽る政策を展開したが,これを受けて,マダガスカル人の単一性にかかわる意識は,文化的統一性や島としての国土の単一性にその根拠を求める言説とともに,ナショナリズムの展開の過程で覚醒された。だが,このような言説はそれ自体が一般論として提起されるものにすぎず,一般論の次元を超えて何らかの具体的な文化的シンボルとの結びつきにおいて定式化されることはない。本稿では,1991年にマダガスカル全土で起こった大規模な反政府運動に例をとってこの事態をあとづけるとともに,そこに看取される自意識のあり方について考察を試みる。