- 著者
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浜本 満
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 民族學研究 (ISSN:00215023)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.1, pp.1-28, 1993-06-30
ケニアのコーストプロビンス,クワレ州に住むドゥルマの人々の間では,ムラムロ,ムブルガという2種の占いの形態が知られている。本稿の目的は,ムブルガの語りのテキストの検討をおこない,もう一方の占いムラムロとの違いを明らかにするとともに,両者の語りのありかたの違いが占いによる問題解決の様式のいかなる違いに対応しているのかを考えることにある。ムラムロでは相談内容が相談者自身によって前もって伝えられるのに対して,ムブルガでは相談者は自分からは相談内容をあかさず,占い師にそれを手探りで語らせることになる。このムブルガにおける占い師による問題の「再記述」が,問題状況にいかなる変容をもたらし相談者に何を与えることになるのか。これは,実際のテキストを分析することによってのみ答えるのとができる問いである。ムブルガにおける占い師の語り,手探りでおこなう「再記述」がどのようなイディオムにしたがって組織され,そこに登場させられる妖術や憑依霊などのエージェントが,この語りの中でどのような役割を演じているかを検討することによって,ムブルガにおける説明のモードの特徴が明らかになる。