- 著者
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長瀬 修
- 出版者
- 日本生命倫理学会
- 雑誌
- 生命倫理 (ISSN:13434063)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.1, pp.125-129, 1997-09-08
- 被引用文献数
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ろう児への人工内耳手術が論争を呼んでいる。人工内耳手術とは内耳に小さな電極を挿入し、音を電気信号に変換、聴神経に直接、電気刺激を伝える不可逆的な手術である。ろう者の組織の多くは各国でろう児への人工内耳手術に反対する運動を繰り広げ、95年の世界ろう者会議は「ろう児に人工内耳手術を勧めない」と決議した。手話を確固たる言語として認識する動きと、ろう文化の主張が背景にある。日本でも93年の「Dプロ」の結成を契機にろう文化運動は上げ潮である。ろう児への人工内耳手術に対しては、(1)現技術レベルの人工内耳は中途半端であり、音声言語、手話言語共に身につかないという批判と、(2)聴者である親が本人の自己決定抜きで、ろう者を聴者に変えようとするのは許されないという倫理的な批判がある。ろう者としての独自の世界があることを、聴者の親に伝える努力が求められている。ろう者自身の組織から、ろう児の親への積極的な情報提供、相談の役割が期待される。