著者
高橋 由典
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.2-16, 1980-12-31

日常生活の様々な場面で、他者は「自己」を視つめる人 (オーディエンス) としての役割を演じる。この「オーディエンスとしての他者」の諸相を明らかにすることが本稿の目的である。オーディエンスは「自己」に対して果す機能の違いによって「監視者としてのオーディエンス」と「観客としてオーディエンス」に二分される。また占める〈位置〉の違いによってそれは「直接的なオーディエンス」と「内的オーディエンス」とに分けられる。<BR>これまで社会学の領域では「観客としてのオーディエンス」の側面が比較的閉却されてきた。自己呈示はこの「観客としてのオーディエンス」に対して行なわれる。そのさい観客からの反応を呈示者がどう位置づけるかに応じて、功利的と美的という二つの自己呈示が区別される。前者の場合、反応は専ら功利的目的実現のために利用される。これに対して後者の場合、反応はあくまで自己呈示の美的効果を保証するものとみなされる。内的オーディエンスを観客とする美的自己呈示 (ダンディ的自己呈示) において、呈示者 (演技者) は美的完全性をめざそうとする。けれども彼のその企てには当然困難が伴なう。自己呈示という他者依存的な場において美的完全性 (という他者非依存) を実現しようとすることは、本来自己矛盾だからである。

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