- 著者
-
立川 陽仁
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 民族學研究 (ISSN:00215023)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.1, pp.1-22, 1999
カナダ, 太平洋沿岸部の先住民族クワクワカワクゥ(クワキウトル)の「貴族層」が経験した植民地統治期における権威の衰退は, これまでの研究においては政治・経済的要因によるものと前提されてきた。つまり, 貨幣経済の浸透によって「貴族」と「平民」の経済的格差が埋まり, あるいは新たなリーダーが誕生したために「伝統」的な貴族の権威が相対化され, かつそれらのリーダーたちによって貴族の役割が剥奪されたと想定されてきたのである。しかしながら, 実際には, これらの貴族は宗教・象徴的な次元においても権威を保持していたのである。このような宗教・象徴的権威の拠り所となるのがクワクワカワクゥ独自の世界観によって「神聖」さを与えられてきたランクであり, 貴族とはその所有者なのであった。本稿は, そのような宗教・象徴的な権威がいかにして植民地統治期に凋落していったのかを探ろうとするものである。具体的には, ポトラッチにおけるヨーロッパ物資の採用や, 天然痘などの疫病の流行がクワクワカワクゥの世界観およびランクの衰退にどのような影響を及ぼしたのかを考察し, 最後に貴族による「抵抗」の手段としてのポトラッチの変化について述べることにしたい。