著者
村上 宣寛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.183-191, 1980-09-30
被引用文献数
2

音象徴の研究には2つの流れがあり,1つはSapir (1929)に始まる,特定の母音と大きい-小さいの次元の関連性を追求する分析的なものであり,もう1つはTsuru & Fries (1933)に始まる,未知の外国語の意味を音のみから推定させる総合的なものであった。本研究の目的は音象徴仮説の起源をプラトンのテアイテトス(201E-202C)にもとめ,多変量解析を用いて日本語の擬音語・擬態語の音素成分を抽出し,それとSD法,連想語法による意味の成分との関連を明らかにするもので,上の2つの流れを統合するものであった。 刺激語はTABLE 1に示した65の擬音語・擬態語であり,それらの言葉から延べ300人の被験者によって,SD評定,名詞の連想語,動詞の連想語がもとめられた。成分の抽出には主因子法,ゼオマックス回転が用いられた。なお,言葉×言葉の類似度行列作成にあたって,分析Iでは言葉に含まれる音をもとにした一致度係数,分析IIでは9つのSD尺度よりもとめた市街模型のdの線型変換したもの,分析IIIでは6803語の名詞の反応語をもとにした一致度係数,分析IVでは6245語の動詞の反応語をもとにした一致度係数を用いた。分析Vの目的は以上の4分析で抽出した成分の関係を調べるもので,Johnson (1967)のMax法が用いられた。 分析Iの結果はTABLE 2に示した。成分I-1は/n/と/r/,I-2は/r/と/o/,I-3は/a/と/k/,I-4は促音,I-5は/o/,I-6は/a/,I-7は/i/,I-8は/p/,I-9は/u/,I-10は/b/,I-11は/k/,I-12は/t/に関連していた。分析IIの結果はTABLE 3に示した。成分II-1はマイナスの評価,II-2,II-4はダイナミズム,II-3は疲労,に関連していた。分析IIIの結果はTABLE 4に示した。成分III-1は音もしくは聴覚,III-2は歩行,III-3は水,III-4は表情,III-5は不安,III-6は液体,III-7は焦りに関連していた。分析IVの結果はTABLE 5に示した。成分IV-1は活動性,IV-2は不安,IV-3は表情,IV-4は音もしくは運動,IV-5はマイナスの評価もしくは疲労,IV-6は液体,IV-7は歩行,IV-8は落着きのなさに関連していた。分析Vの結果はTABLE 6とFIG. 1に示した。音素成分と意味成分の関係として,I-5 (/o/)とIV-8(落着きのなさ),I-7 (/i/)とIII-7(焦り),I-10 (/b/)とIII-6(液体)が最も頑健なものであった。さらに,I-8 (/p/)とII-2(活動性),I-9 (/u/)とIII-5(不安)及びIII-6(液体),I-12 (/t/)とIII-2(歩行)及びIV-8(落着きのなさ)も有意な相関があった。 日本語の擬音語・擬態語の限定のもとで,音象徴の仮説が確かめられた。/o/が落着きのなさを,/i/が焦りを,/b/が液体を象徴するという発見は新しいものでありその他にも多くの関係があった。また,SD法によってもたらされた成分は狭い意味の領域しかもたらさず,意味の多くの側面を調べるには不十分であり,擬音語と擬態語の区別は見出されなかった。

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