著者
吉村 匠平
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.85-93, 2000-03-30
被引用文献数
1

本研究は, 「かくこと」が, 文脈抜きでは捉えられない外部との相互交渉活動であり, 従来の文章産出研究のような「考えていることを言葉に置き換える作業(堀田, 1993)」としては捉えられない活動であることを, 幾何の問題解決場面を取り上げながら検討した。実際Iでは, 24人の大学生が幾何の問題を解く様子を録画した。その結果「かくこと」が, (1)解法を模索して行われる探索的な図へのかきこみと答案の作成, (2)身体運動的側面の活性化と所産の活用の2つの次元から構成される活動であることが示された。実験IIでは, 図へのかき込みと答案の作成に3通りの制限(身体運動を制限, 痕跡の利用を制限, 両方とも制限)を加え, それによって問題解決過程にどのような変化が見られるかを検討した。その結果, (1)答案の作成への制限は問題の解決には影響しない。(2)探索的な図へのかき込みへの制限では, 身体運動と痕跡の利用の両方を同時制限された条件でのみ問題解決の進展が停滞する。(3)身体運動, 痕跡の利用のいづれか一方を制限された条件では, 問題解決の過程を変化させることで問題を解くことが示された。さらに, 問題解決の過程の変容を分析し, 「かくこと」が対話の相手を擬似的に現前させつつ, 対話を展開し, それによって外部との相互交渉を展開していく活動であることが示された。

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