- 著者
-
真島 一郎
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 民族學研究 (ISSN:00215023)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, no.4, pp.406-432, 1991
本稿の目的は,西アフリカ,象牙海岸共和国のダン族に於ける仮面表象を通して,秘密結社の政治体制を支えるその「力」観念の特質を探っていくことにある。ギニア湾西部のいわゆる《ポロ結社文化》の諸社会に比べ,ダンの社会では,権力の行使が秘密結社に集中している。ただ,結社権威の観念的な拠り所となる「力」は,実は妖術と同一の概念あり,重大な規範侵犯への制裁も妖術制裁の形をとっている。とりわけ,森由来の精霊である仮面は秘密結社と密接に連係し,結社と同じ「力」に訴えることで,制裁への恐怖に裏付けられた規範維持に寄与している。だが結社のイデオロギーは,邪悪な妖術と同じ本質を持つ「力」を自らの手で完全に正当化することができない。そこに,ダンの仮面表象に於いては例外的な,「面なき仮面」の生きる余地が生じてくる。秘密結社という支配集団は,「誰でもない」その声に託して,権力への自己言及の道を開こうとするのである。