著者
浅川 智恵子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.1844-1852, 1993-08-15
被引用文献数
6

パーソナルコンピュータの普及に伴い、福祉の世界で、コンピュータを使えば障害の一部もしくは、多くの部分が代行できるのではないかという期待が高まっている。実際、障害者を支援する目的で、さまざまな機器の研究、開発が進められている。筆者らはその中で、視覚障害者の情報源の拡大、職域の拡大および教育環境の改善を目標にソフトウェアの研究、開発を進めてきた。本論文では、教育環境の改善を目標に試作した点字英和辞書検索システムについて、点字データの作成からシステム開発に至るまでの経過を報告する。一冊の図書を点訳すると、そのぺ一ジ数は数倍から数十倍になる。辞書のような1ぺ一ジ当たりの情報量の多い書籍になると、数百倍になるといわれている。そのため、点字本をどうやって保存、利用するかは視覚障害者にとって大きな問題である。また、数百巻に及ぷ点字辞書を引くことは大変な作業である。そこで、量的な問題から、中級クラス以上の英語辞書の点訳および出版はこれまで行われていない。そのため、大学や大学院等の高等教育機関で英語を勉強していくことは大変困難であり、語彙数の豊富な、内容の充実した英和辞書をコンパクトな形で使用したいという強い希望があった。このような問題を解決するため、筆者らが開発した点宇編集プログラムBEを使ってコンピュータ点訳された、小学館発行のプログレッシブ英和中辞典を利用して、点字英和辞書検索システムの研究開発を行った。本システムの使用にあたっては6点点字が完全にサポートされており、視覚障害者は通常のキータッチを知らなくても使用可能であるまた、検索した内容を確認するため、点字ピンディスプレイの接続を可能にした、これにより、視覚障害者は、通常読み書きしている点字と全く同様の形で、本システムを利用することができる。辞書データのサイズは約15MB、トライ法を参考に作成したインデックスは約3MBとなり、全体で20MB必要とするだけである。これは、ノート型のパーソナルコンピュータでも稼動可能な容量であるため、上記にあげた問題点をすべて解決することができた。点字ビンディスプレイはパーソナルコンピュータのディスプレイとは違い、一回に一行しか表示できないため、検索された単語の説明文をすばやく読めるよう、いくつかのジャンプコマンドを用意し、調べたい意味や熟語等をすばやく捜し出せるようにした。本システムは現在全国69の盲学校および10人の盲学生に利用されている。

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