- 著者
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平嶋 宗
柏原 昭博
豊田 順一
- 雑誌
- 全国大会講演論文集
- 巻号頁・発行日
- vol.49, pp.273-274, 1994-09-20
本稿では、教育支援システムの高度化を指向して、学習者自身による誤りの認識修正を誘導する手法を提案する。教育的観点においては、誤りの発生は学習者の問題解決能力や知識を発展させる絶好の機会である。この機会を生かすためには、正しい問題解決方法を天下り的に教えるのではなく、学習者自身が能動的に誤りの認識と修正を行えるように誘導することが重要となる。このためには、学習者が自分の解答が誤りであると認識し、正しい方向に修正してゆくために十分な、しかも学習者が能動的に考える余地を残した情穀を選択・提供する能力が教育支援システムに求められる。学習者自身による能動的な誤りの認識・修正を支援する手法としては、mapping instruction、analogical mapping、ソクラテス式教授法を挙げることができる。これらは学習者自身による誤りの認識修正を支援するために有用な事実の選択・提示法として定式化することができる。前二者は、正しいものを学習者に理解させることに重点が置かれており、その結果として誤りが認識・修正されると解釈できる。ソクラテス式教授法は、反例によってより直接的に学習者に誤りを認識させる方法も含んでいるが、この方法は解答がYes/Noに限られた宣言的な問題解決の領域で有効なものであった。本稿では、手続き的な領域を対象として、学習者に誤りの存在を伝え、修正方向を示唆する方法として、誤り投影法(Error Projection)を提案する。この方法では、学習者の解答が誤りであることを伝えることに重点を置いており、その解答の誤りを元の問題に関する挙動シミュレーションや問題自身等へ投影する。挙動シミュレーションに誤りが投影されると、多くの場合学習者が不自然と認識できるシミュレーションとなり、また一見自然に見える場合でも、正しいシミュレーションとの比較によりどのように誤っているのかを認識しやすくなる。また、誤りの修正も正しいシミュレーションとの差異を埋めることとして方向付けることができる。問題に対して投影された場合には、元の問題との差異が存在するにも関わらず、その答えが一致する問題が生成されることになり、その差異が解答に影響するはずであることを学習者が知っていれば、学習者は誤りの存在を認識できる.また,誤りの修正は、問題間の差異を問題解決に反映させることとして方向付けることができる。mapping instrctionやanalogical instrctionが正解を基点として正しさを強調することによる誤りの認識修正支援であるのに対して誤り投影法は、誤りを基点として誤りであることを強調するものとなっているまたソクラテス式教授法とは異なり、手続き的な領域で有効な方法となっている。以下では、高校程度の力学問題での立式の誤りを対象として、挙動シミュレーションに対する誤りの投影と、問題に対する誤りの投影について述べる。