- 著者
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広内 哲夫
- 出版者
- 日本知能情報ファジィ学会
- 雑誌
- 日本ファジィ学会誌 (ISSN:0915647X)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, no.4, pp.736-755, 1994
- 被引用文献数
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L.A.ザディーは、人間中心のシステムに数理モデルを適用するのは不適切であり、本質的には言語モデルを用いるべきであるという「不適合性原理」を提唱した。野球の外野手が球を追跡し捕捉するという人間が演じる行動は、ザディーが主張するところの典型的な人間中心のシステムと言えるであろう。外野手はただ球の飛ぶコースを眺めながら、過去の訓練で身に付けた技能だけを頼りに、自分の走る速さより遥かに高速で飛ぶ球を難なく捕捉するのである。S.チャップマンは、外野手の捕球行動の観察から、捕球のための簡単な規則を見い出した。そこで、筆者はチャップマンの経験則をファジィプロダクション規則として構成し、外野手の捕球行動をファジィ制御的にシミュレートするファジィエキスパートシステムBS-SIMを開発した。そのシステム内に設定された外野手ロボットは、刻々と変化する球の状況をファジィ観測し、チャップマン経験則をはじめ、いくつものファジィプロダクション規則群を用いて、適切な走行速度を推論し、落下地点に到達する能力を持っている。このような能力を持った外野手ロボットは、現実に近い3次元シミュレーション環境(例えば風が吹く環境)において、非常に高い(場合によっては100%)確率で球を捕捉することが出来た。外野手ロボットの捕球行動は、言語モデルをベースにしているため、大局的な観点からすれば、人間の捕球行動をシミュレートしていると言ってよい。