- 著者
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広渡 俊哉
- 出版者
- 日本鱗翅学会
- 雑誌
- 蝶と蛾 (ISSN:00240974)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.4, pp.311-329, 2005
ウスベニヒゲナガNemophora属は, 全世界に約350種(そのうち150種は未記載種)が分布するとされている.日本では22種が知られているが, 琉球列島からはアマミヒゲナガN. marisella Kozlov & Hirowatari, 1997の1種が知られるのみで, 研究は不十分だった.著者や大阪府立大学関係者, 沖縄の木村正明氏らが採集した材料を中心に検討を行った結果, 琉球列島産のウスベニヒゲナガ属に2新種2日本新記録種を含む7種を認めた.ヒゲナガガの成虫は主に昼間にシイ類の花などに集まるものを採集したが, 灯火採集でも多くの個体が得られた.特に, 2002年3月22日に沖縄本島北部の辺土名で木村氏らと日没直後の雷雨の中で行った灯火採集では, 沖縄本島に分布する4種が合計70個体以上も飛来した.本稿では奄美大島で1♀のみが採集されたギンスジヒゲナガを除いて, 各種の雌雄交尾器を図示・記載した.以下は, 琉球列島産ウスベニヒゲナガ属7種の特徴, 分布などの概要である.1. Nemophora ahenea Stringerコンオビヒゲナガ(琉球列島新記録)(Figs 1A-B, 4, 10A-C)中型(開張13-15mm).前翅は金色の光沢を帯びた赤銅-赤紫色で, 細い濃紺色の帯をもつ.前翅前縁基部と帯の両側は明るい青色の鱗粉で縁取られる.本種は琉球列島では八重山諸島(石垣島, 西表島)で採集されているが, 奄美・沖縄諸島では発見されていない.本土産(開張11-13mm)と比べてやや大型で, 前翅は金色の光沢が強い(本土産は紫色の光沢が強い), ♂前翅の紺色の帯が狭い, ♀の触角基部に黒色の鱗粉束をもつ, などの点で異なっているが, 交尾器の形態には顕著な差異は認められなかった.なお, 本州では♂が群飛することが知られているが, 琉球では群飛を観察していない.分布: 本州, 九州, 琉球(石垣島, 西表島);台湾.2. Nemophora tenuifasciata sp. nov.ウスオビコヒゲナガ(新種)(Figs 1C-D, 3A-B, 5, 11A-C)琉球列島産の本属中もっとも小型(開張11-13mm).頭頂部は♂♀ともに黄色.前後翅ともに細長い.前翅は弱い光沢がある淡褐色.前翅の白帯は不明瞭で変異が大きく, 白帯をまったく欠く個体も多い.ホソオビヒゲナガN. aurifera (Butler)に似るが, 小型であること, 前翅の白帯が不明瞭, 交尾器のバルバの形状など区別できる.シイ類の花で吸蜜, あるいは花の上を飛翔している成虫を採集した.分布: 琉球(奄美大島, 沖縄本島).3. Nemophora pruinosa sp. nov.リュウキュウクロヒゲナガ(新種)(Figs 1E-F, 3C-D, 6, 12A-C)小-中型(開張12-15mm)で, 前翅の地色は黒色で♂では淡黄色, ♀では白色の鱗粉が散布される.白帯の両側は黒色, さらにその外側は鈍い光沢のある鉛色の鱗粉で縁取られる.キオビクロヒゲナガN.umbripennis Stringerに似るが, 本種では♂の下唇鬚が短く短毛がまばらに生じる(Fig. 1N)のに対して, キオビクロヒゲナガでは♂の下唇鬚は長く長毛で蜜に覆われる(Fig. 1O)他, 交尾器の形態も異なる.♂成虫は, シイ類などの樹冠部の上空で群飛していた.分布: 琉球(奄美大島, 沖縄本島, 宮古島).4. Nemophora marisella Kozlov & Hirowatariアマミヒゲナガ(Figs 1G-H, 7, 13A-C)中-大型(開張14-19mm).♂では触角基部, ♀では触角の基半部が黒色鱗で覆われる.前後翅ともに幅広く, 前翅は光沢のない黒褐色で, 白帯は細い.奄美大島産に基づいて記載されたが, 沖縄本島, 八重山諸島(西表島)にも分布することを確認した.西表島産は, 斉藤寿久博士が採集した幼虫を飼育・羽化させたもので, 奄美・沖縄産に比べて小型(開張♂14.4-14.7mm, ♀14.9mm)で黒みが強く, 前翅の白帯は2♂では非常に狭く不明瞭(1♀では明瞭)であった.これが地理的変異なのか個体変異なのかは現時点では不明.分布: 琉球(奄美大島, 沖縄本島, 西表島).5. Nemophora polychorda (Meyrick)タイワンオオヒゲナガ(日本新記録)(Figs 1I-J, 8, 14A-C)大型(開張15-22mm).前翅は黄褐色で横帯は橙黄色.本種は台湾産の個体に基づいて記載された.台湾産はサイズが大きい(開張♂25-30mm)が, 琉球列島産は相対的に小さい.本種は奄美大島と沖縄本島で比較的普通で, ♂はさまざまな樹木の樹冠部やその周辺などで群飛していた.分布: 琉球(奄美大島, 沖縄本島);台湾.6. Nemophora magnifica Kozlovイナズマヒゲナガ(新称, 日本新記録)(Figs 1K-L, 9, 15A-C)前翅は暗褐色で, 前翅基半部にW型(イナズマ状), 基部2/3の前・後縁に三角状の淡黄色斑をもつ.中型(開張15-16mm).全種と同様に, 本種は最初に記載された台湾産(特に♂: 開張18-21mm)に比べて小さい.分布: 琉球(石垣島, 西表島);台湾.7. Nemophora optima (Butler)ギンスジヒゲナガ(琉球列島新記録)(Fig. 1M)琉球列島から奄美大島で採集された1♀(開張12mm)のみが確認された.前翅, 前・後縁に黒鱗で縁取られた銀色の短条線をもつ.本州産に比べて前翅の地色が濃い.分布: 北海道, 本州, 九州, 琉球(奄美大島).