- 著者
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黒佐 和義
- 出版者
- 日本衛生動物学会
- 雑誌
- 衛生動物
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.4, pp.245-276, 1958
- 被引用文献数
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1)線状皮膚炎を惹起する有毒甲虫, Paederus fuscipes Curtisアオバアリガタハネカクシの生活史・習性について野外観察並びに実験的調査を行い, また各期の外部形態を記載した.2)成虫は体長7mm内外で一見蟻のような形状を有する.蛹は体長4.5mm内外の裸蛹で, 全体乳白色乃至橙黄色を呈し, 前胸背の前縁部と後縁部及び第1, 3〜7腹節の側端に各1対の非常に長い剛毛状突起がある.第2齢(終齢)幼虫は体長4〜6mmで, 細長く, 白色乃至橙黄色を呈し, 第9腹節に1対の長い尾突起を具える.第1齢幼虫は体長2.2〜2.4mm.卵は殆ど球形で, 産下当初は淡黄白色で長径約1.1〜1.2mmであるが, 発育に伴つて急速に増大し, 色彩も黄褐色に変る.3)本種は本邦では北海道から九州迄全土に亘つて広く分布するが, 概して暖地に多産し, 水田・畑・池沼の周辺・川岸などに棲息する.成虫は地表及び雑草上で生活する.東京都の成増では成虫は4月下旬乃至5月中旬頃から10月下旬に亘つて灯火に飛来し, 6・7月頃にピークを形成するのが認められた.成虫の灯火飛来活動はいわゆる前半夜型に属し, 暗化後2時間半以内の飛来個体が1夜の総飛来数の過半に達した.4)交尾の際, 雄は雌の背上に乗り, 大腮で雌の前胸と中胸の間の縊れた部分をくわえる.卵は地表の土壌間隙に1個ずつ産下される.1頭の雌の総産卵数は18〜100個(平均約52.3個)であつた.越冬した雌は4月下旬乃至5月中旬から通常7月中・下旬迄産卵を行い, 6月上旬に羽化した成虫は7月から9月に亘つて産卵を行つた.5)卵期間は3〜19日で, 孵化率は96.2%であつた.幼虫期は僅か2齢からなる.第1齢及び第2齢の期間はそれぞれ約4〜22日及び7〜36日であつた.老熟した幼虫は浅い土中に蛹室を造り, 約2〜9日後蛹化する.蛹の期間は約3〜12日であつた.6)成虫は雑食性であるが, 特に食肉性の傾向が強く, 野外では種々の昆虫, ダニ, 土壌線虫などを捕食し, また植物のやや腐敗した部分などを食するのが見られた.幼虫の食性も成虫と同様であつて, 捕食性の傾向が強く, 実験室内では牛肉或いはキュウリの一片の何れを与えても飼育することが出来た.7)周年生活環は東京附近では不規則で1年3世代のものと2世代或いは1世代のものがある.越冬は常に成虫態で行われる.越冬の際多数の個体が集団を作ることがある.8)有毒物質は卵・幼虫・蛹・成虫の何れからも証明された.成虫では有毒物質は体液中に含まれており, 虫体が破壊されて体液が外へ洩れ出ない限り皮膚炎を起すことはないと考えられる.本邦に産するPaederus属のハネカクシ8種のうち, fuscipes, tamulus, poweri, parallelusの4種は有毒物質を含むことが判明したが, 線状皮膚炎の原因として実際に重要なのはアオバアリガタハネカクシ唯一種である.本邦に於いて筆者により明かにされた灯火飛来性を有する68種のハネカクシの内には皮膚塗擦試験で軽微な皮膚炎を惹起するものがあるが, アオバアリガタハネカクシ以外に線状皮膚炎の症状を呈するものはない.