著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.5-28, 1991-04-25

Creditability取引は,1回1回の取引で利益はでなくてもいい,信頼できる多角的な複数の相手と,細かなルールを決めずに取引し,長期的,全体的にみて利益がでればいいという考え方である。日本の"今回は泣いてくれ"という取引に典型的にあらわれる。この考えは,強力な武士階層が支配し平和が統いた江戸時代に定着した。平和が続いたため武士と君主との間に実質的な価値のある取引ができなくなり,儒教の中の君臣倫理,共同体倫理などの抽象的価値だけがとり出され,滅私奉公の精神が強調された。これが,支配階層の価値観にすり合せようとする日本の商人の集団性,協調性の価値観のもととなった。利より義を重んずる家訓・価値観が拡がった。しかし現実には大名貸,株仲闇取引で実質的な利は確得していた。一方西欧では,人生は闘争であり,そこではカルヴァン派の,神にのみ責任をもつが神にも頼れないという<内面的孤独化>の考えができ上り,そこから<禁欲的職業労働>の価値観ができ,商人の間に資本主義精神が育った。現在,儒教で資本主義のアジア圈の国々の経済成長はめざましい。そのうちでも日本のCreditability取引は,系列企業システムなどによって高い生産効率をあげ,その効用が宣伝されている。しかし日本企業がグローバル化する現在,闘争を前提とする価値観をもった異った国の人々と取引をせざるをえず,平和・協調の価値観のCreditability取引はできなくなる。さらに日本国内のCreditability社会の中では,細かいルールがないため過度の強者が現れると富の配分が大きく偏り,人々の不満がCreditability社会を支えている政治的枠組自体をこわす可能性もでてきた。ここで過度の強者がでないように,意思決定者の深い洞察力と大きな道義感の必要性が強調されるようになってきた。

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