- 著者
-
高橋 美樹
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, no.4, pp.46-59, 1992-10-25
本稿は,「異業種交流」,「戦略的提携」など新しい形態の企業間関係の進展を念頭におきながら,これまでの中小企業研究を整理・検討し,現段階で中小企業の企業間関係を分析する上で必要とされる視点・課題を示すものである。なお,本稿では,中小企業研究のうちでも特に「中小工業研究」を取り上げる。結局,現段階で中小企業の企業間関係を分析する上で必要とされる視点は3つに要約できる。第1に,われわれは中小企業成長の事実・可能性を正当に認めなければならないと考える。この場合,中小企業を一義的に「独占資本による収奪の対象」として把握するのは適当でない。第2に必要とされる視点は,中小企業とほかの企業が結ぶ企業間関係に,「支配・従属」関係をア・プリオリに仮定しないという視点である。第3に,以上のような2つの視点に立つならば,中小企業の企業間関係,あるいはそこでの「問題」を分析する上で,「中小」という「企業規模」がどの程度まで意味をもつかを検討する必要がある。現段階の企業間関係を特徴づけるのは,(1)専門技術をもった企業が,環境への適応を目的に,(2)自発的に参加して,自立的・継続的な企業間関係を構築し,(3)その関係が,環境適応の成功を通して,効率性・経済性を発揮するという点にある。われわれは,このような企業間関係を「ネットワーク型産業組織・企業間関係」とよびたい。そして,このような前向きの中小企業観を前提としながら,「問題」を発見し,解明することが重要だと考える。