著者
高橋 美樹
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.58-79, 2006 (Released:2009-10-29)
参考文献数
47

本稿の目的は1920-40年代に沖縄出身の普久原朝喜が丸福レコードにおける〈媒介者〉として、どのような実践をしていたのか明らかにすることである。制作者としての役割を果たしながら、歌手・演奏家、聴衆を仲介する人物として、朝喜の実践を分析した。結論は以下の3点である。第1に、朝喜はレコードを沖縄、日本、海外における沖縄系エスニック・コミュニティに向けて発信するスタイル、つまり〈内向き〉発信スタイルに基づきレコードを発売していた。第2に、レコード制作は沖縄固有のローカル性に富み、聴衆と販路は国境を越え流動化していた。ただし、丸福レコードの活動は国という地理的な境界は越えたが、沖縄人という民族的な境界は越えていなかった。第3に、大阪在住の朝喜の存在は沖縄移民の中継地として機能していた。朝喜は沖縄、日本、海外における沖縄系ネットワークを有効に活用し、レコード制作販売に反映させることで商業的成功を成し遂げたといえる。
著者
高橋 美樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.123-140, 1999-02-25

本稿では,創業支援策の理論的根拠を提示し,創業支援策と中小企業政策との関連を明らかにする。近年の「進化論的経済学」に従えば,創業支援策の理論的根拠は,基本的に,イノベーション創出における中小・ベンチャー企業の優位性に求めることができる。一方,中小企業政策の理論的根拠は,活力ある独立した中小企業を育成することが「大企業・独占への対抗勢力」となる点に求めることができる。以上のような議論を踏まえると,結局,中小企業の存在意義は,単なる「反独占勢力」ではなく,「イノベーション創出を担う反独占勢力」という点にある。そして中小企業政策や創業支援策の目的は,こうした中小企業を育成することにある。その場合,いたずらに中小企業を「保護」するのではなく,積極的な競争促進政策と創業支援策の一体的活用を通じて中小企業を「育成」する-これが,創業支援策が活発化する現状での,今日的な「反独占政策としての中小企業政策」なのである。
著者
十川 廣國 今口 忠政 岡本 大輔 高橋 美樹 馬塲 杉夫 今野 喜文 許 伸江 横尾 陽道
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.125-132, 2000-06-25

経済を活性化させる起爆剤として,新しいベンチャー企業の創出に注目が集まっている。ベンチャー企業の創出には,基幹となるアイデアや技術をもった起業家の存在が必要不可欠であるが,人材を輩出する大学,基礎技術を産業界に移転するTLO,新規事業の立ち上げを支援するベンチャーキャピタル,支援のための制度を整備する行政などが連携して起業を支援する体制を作ることも極めて重要である。地方自治体の中には,そのようなベンチャー企業の育成に積極的に取り組み,徐々に成果を生んでいる地域もみられる。中でも,山口県は「山口チャレンジモデル」という民間・大学・行政の連携を強化することによって,新規の産業創造に積極的に取り組んでいる自治体である。われわれは,山口大学地域共同研究開発センター,山口県庁,山口大学経済学部を訪問して,ベンチャー企業の創出に対する大学の役割,行政の役割をヒアリング調査し,さらに山口県と連携した山口キャピタルの金融支援の現状について調査した。その結果,山口大学工学部を中心としたTLOを通じたリエゾン活動,山口県と山口大学経済学部との連携による人材育成や金融支援が効果的に機能している実態を把握することができた。さらに,このような取り組みのもとに,急成長しているファーストリテイリング社(ユニクロ),LSI設計に特化した創業間もないプライムゲート社を訪問して,経営者の企業経営に対する考え方,経営の現状と課題についてインタビューすることができた。本資料は,2社のインタビュー記録を取りまとめたものである。
著者
高橋 美樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.p49-60, 1992-12

本稿では取引コスト・モデル(経済学)を応用して,「ネットワーク型産業組織・企業間関係」の下での「中小企業問題」を論じる。中小企業による「戦略的提携」あるいは,その全体像としての「ネットワーク型産業組織・企業間関係」というときには,中小企業全般の研究開発力・マーケティング力・経営管理力の向上や,新しい企業間関係が積極的に評価される。しかしながら,「ネットワーク型産業組織・企業間関係」の下での「中小企業問題」の解明は,十分になされているとはいえない。そこで,ここでは,上に述べたような「積極評価」と「問題性」との双方を視野にいれた新しい分析を試みる。そして,中小企業分野を中心に,「技術の専有可能性」(技術の模倣されにくさ)と「補完資産」(開発技術・製品から利益を得るために必要な,補完的製造技術,販売網など)という2つの概念を用いて,イノベーションと企業間関係の関連を分析し,結論として,「ネットワーク型産業組織・企業間関係」の下でも「問題」が無くなったわけではなく,「新しい」問題,すなわち「技術取り引き」に関わる問題が生じうることを示し,今後,予想される傾向として,次の諸点を示す。(1)中小企業経営戦略の一貫として,「技術の専有可能性」を高める戦略,すなわち他企業の追随を許さないような「ダントツ技術」の開発戦略や知的財産権・特許管理戦略がますます重要になる。(2)中小企業分野でも,「技術取引の適正化」という(独占禁止政策上の)課題の重要性が高まる。(3)「ネットワーク型産業組織・企業間関係」の下での「企業規模間格差」問題というときも,「企業規模」の基準は単なる従業員や資本金の大きさではない。従業員や資本金の大きさは,本稿で考察してきた「技術の専有可能性」向上や「補完資産」獲得の上での有利・不利を左右して初めて意味を持つ。
著者
高橋 美樹子 多田 周右 向井 秀幸 松尾 和彦
出版者
帝京平成大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

中心体は分裂期に双極紡錘体を形成して染色体の均等分配に重要な役割を果たす。そのために中心体の複製は細胞周期につき1回だけ、細胞分裂を経た後に開始できるというライセンシング制御が想定されている。その分子機構は未解明であり、染色体分離に関わるタンパク質分解酵素セパレースが必要であることは知られていたがその基質も不明であった。本研究によって、中心体タンパク質kendrinが中心体におけるセパレースの重要な新規基質であり、分裂期におけるkendrinの限定分解とそれによる中心体からの解離が、次の中心体複製開始すなわちライセンシング機構に必要であることを世界で初めて明らかにした。
著者
高橋 美樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.46-59, 1992-10-25

本稿は,「異業種交流」,「戦略的提携」など新しい形態の企業間関係の進展を念頭におきながら,これまでの中小企業研究を整理・検討し,現段階で中小企業の企業間関係を分析する上で必要とされる視点・課題を示すものである。なお,本稿では,中小企業研究のうちでも特に「中小工業研究」を取り上げる。結局,現段階で中小企業の企業間関係を分析する上で必要とされる視点は3つに要約できる。第1に,われわれは中小企業成長の事実・可能性を正当に認めなければならないと考える。この場合,中小企業を一義的に「独占資本による収奪の対象」として把握するのは適当でない。第2に必要とされる視点は,中小企業とほかの企業が結ぶ企業間関係に,「支配・従属」関係をア・プリオリに仮定しないという視点である。第3に,以上のような2つの視点に立つならば,中小企業の企業間関係,あるいはそこでの「問題」を分析する上で,「中小」という「企業規模」がどの程度まで意味をもつかを検討する必要がある。現段階の企業間関係を特徴づけるのは,(1)専門技術をもった企業が,環境への適応を目的に,(2)自発的に参加して,自立的・継続的な企業間関係を構築し,(3)その関係が,環境適応の成功を通して,効率性・経済性を発揮するという点にある。われわれは,このような企業間関係を「ネットワーク型産業組織・企業間関係」とよびたい。そして,このような前向きの中小企業観を前提としながら,「問題」を発見し,解明することが重要だと考える。
著者
岡室 博之 港 徹雄 三井 逸友 安田 武彦 高橋 美樹 堀 潔 原田 信行 本庄 裕司 福川 信也 土屋 隆一郎 加藤 雅俊 濱田 康行 村上 義昭 鈴木 正明 柴山 清彦 島田 弘 池内 健太 西村 淳一
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

2007年1月以降の新設法人企業に対して、2008年11月以来4回の継続アンケート調査を実施し、特に研究開発型の新規開業企業の創業者の属性や資金調達・雇用、研究開発への取り組みと技術成果・経営成果等について独自のデータセットを構築した。それに基づいて、新規開業企業の研究開発に対する創業者の人的資本の効果(資金調達、技術連携、イノベーション成果)を計量的に分析した。さらに、政府統計の匿名個票データを入手して自営開業について統計的分析を行い、アンケート調査に基づく分析を補完した。また、知的クラスターに関するアンケート調査と訪問調査を実施し、クラスター政策と新規開業・イノベーションの関連等を考察・分析し、国際比較を交えて関連政策の評価を行った。